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レッド・グラビティのbackpackerのレビュー・感想・評価

レッド・グラビティ(2020年製作の映画)
3.0
【カリテファンタスティックシネマコレクション2022】

ーーー【あらすじ】ーーー
異常高温による生態系崩壊と資源枯渇により荒廃した、10年以上雨の降らぬ近未来。世界は、スペース.W.R社が提供する高エネルギー物質ルミナによりかろうじて存続していた。
そんな中、ルミナを採掘していた惑星レッドムーンが、突如地球に接近。衝突の日が刻一刻と迫っていた。
地球を救えるのは、レッドムーンを取り巻く高磁場圏を抜けられる唯一の宇宙飛行士ポール.W.Rしかいない。
しかし、肝心のポールが行方不明となってしまい……。
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バンドデシネ風なビジュアルセンスが炸裂する、美しいミニディストピアSF。
なんと言っても、「見上げると空には、巨大な赤い月」というビジュアルの、有無を言わせぬ絶望感と言ったらありません。
これほど高質量の巨大な物体が空に浮いてるだけで、正直お手上げですね。
どうやら、監督が過去に作った短編作品の長編化版みたいです。


「幼少期に天からの啓示により預言者(救世主)となった青年は、奪われた使命を果たすべく、過去の記憶を取り戻すため旅に出る。道中拾った大いなる価値を有する少女を救う為に敵を撃ち倒した彼は、自らの役目を取り戻し、我が身を犠牲にして世界を救う」という構成のロードムービーである本作は、ビジュアルの力で勝負した佳作といった印象です。
「逃げ出した先で見つけた答えは、元の場所に戻ることだった」というところだけ抜き出すとわかりやすいですが、実は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と殆ど一緒(赤い雷鳴が轟く巨大な砂嵐に車で突っ込むシーンとか、まんまデス・ロードですし、本作のオマージュソースが何かは一目瞭然ですが)。
また、救世主の死によって世界に平和をもたらすという構図は、『マトリックス レボリューションズ』等でも引用されているキリスト教的なモチーフは、古典的説話構造が下地になっているがゆえと思われます。

しかし、それだけでは『マッドマックス』シリーズの偉大なる発明、"砂漠で撮る超低予算ポストアポカリプス・ディストピア"をやってるだけで終わってしまいそうなところ。
そこで効果的だったのが、"赤い月"関連ビジュアルと、モノクロで描かれる幼少期です。
この要素だけで、だいぶユニークな作品になりました。
とりわけ、"水の引いた浜辺を走り、赤い雷に打たれる"モノクロシーンは圧巻です。幼い子どもが、垂れ込める曇天の下、荒れる海を後ろに、必死で走る姿を、スローのパンでじっくり映す。そして、モノクロだった画面に走る赤い閃光。いやー、これは強烈に素晴らしいビジュアルでしたね。


正直、ディストピア映画をいくつも足し合わせたような内容は、オリジナリティや面白みはあまりありません。
しかし、ビジュアル、この一点だけで、印象的作品に仕上げた本作は、十分良くできていたと思います。
ジャン・レノが脇役で出ていたりしますが、その辺はあくまで本筋に関係ありませんので、そこを期待してご覧になる方はご注意ください。

そういえば、乗り込む宇宙船が『タンタンの冒険』の月ロケット系の古典的デザインだったの、良かったなぁ。
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