chiakihayashi

ジェーンとシャルロットのchiakihayashiのレビュー・感想・評価

ジェーンとシャルロット(2021年製作の映画)
4.1
@試写
 娘のシャルロット・ゲンズブールが、母親のジェーン・バーキンをより深く知り、同時に娘である自分自身をも知るために撮ったドキュメンタリー。2020年の製作だが、ジェーン・バーキンの訃報が伝えられて日本では追悼上映になってしまった・・・・・・。合掌。

 シャルロット・ゲンズブール(1971年生)と言えば、13歳にして初めての主演映画の邦題が『なまいきシャルロット』で、以来、父セルジュ・ゲンズブールの名字とともに、名前だけは身近に感じられる女優さん。2009年にカンヌ国際映画祭主演女優賞を受けて以後のラース・フォン・トリアー監督の作品は見ていない(私はラース・フォン・トリアー監督のミソジニーを上手く対象化できない)し、話題作も見逃しているけれど、それでも彼女がヒロインに扮した『ジェイン・エア』(フランコ・ゼフィレッリ監督、1996)は映画の出来はともかく、ミア・ワシコウスカよりもジェイン・エアにふさわしかったように思うし、最近ではミカエル・アース監督『午前4時にパリの夜は開ける』のフツーの女性を自然体で演じたのが私的にはピカイチだった。夫に去られ、傷心のヒロインが運よく自分に合った仕事を見つけ、紆余曲折がありながらも新しい恋人も含めて自分らしい人生を歩むに至るまでを描く。さりげないシーンにそれぞれの登場人物の思いを丁寧に汲み上げるミカエル・アース監督の手法はシャルロット・ゲンズブールにはとても似合っていた。

 一方、母親のジェーン・バーキン(1946年生)は若い頃の写真を見るととてもきれいなひとだけれど、私がレンタルビデオで観て印象的だったのは、2000年の女性監督によるシンデレラ物語の語り直しの映画で、王子がロックバンドでギターを弾いているといった現代風の作品での魔女の役。長身に似合うほっそりとした(確かパープル色の)ドレス、長い髪を自然になびかせた全然魔女らしくない風情なのだけれど、それでも不思議に魔女そのものだった、というか。

 私生活では『007』の作曲家ジョン・バリー、もはや伝説と化しているセルジュ・ゲンズブール、映画監督のオリヴィエ・アサイヤスと結婚(後者2人とは事実婚)・離婚し、それぞれの相手と娘をもうけている。

 今作では、自分で髪を短く切り、いささか崩れた体形を気にするふうもなく、娘が向けるカメラの前であろうと、いつでもどこでも「私は私」感満載。〈視線の政治学〉では往々にして支配とコントロールのための道具となるカメラが、ここでは被写体に近づき、さらにはその存在を肯定するための道具になっている。

 シャルロットは母が去った後も父とともに暮らしていたこともあってか、母親に対して遠慮があり、ジェーンの方もシャルロットという娘は自分には謎めいていたと、最初はふたりともカメラの前でお互いにちょっとぎごちなさを感じているのを隠さない。以後も、母娘だからというよりは、互いが互いをひとりの大人の女性として尊重しているのが伝わってくる。

 つまりは、常に耳目を集め、人目に晒されてきたアイコンにもかかわらず、彼女たちが自分自身であることに、言い換えれば自分と世界に対して誠実で謙虚であることに、私たちは打たれるのだ。
chiakihayashi

chiakihayashi