井手雄一

ジェーンとシャルロットの井手雄一のレビュー・感想・評価

ジェーンとシャルロット(2021年製作の映画)
-
ジェーンBが逝って1ヶ月あまり、心も落ち着きようやく観に行けました。

2世代にわたるポップアイコンである母娘、ジェーンBにシャルロットG、そして2人のポップスターを作り上げた夫であり父親であるセルジュ・ゲンズブール。
20世紀後半フランスのカルチャーの一時代を担って来た大スターであるファミリーの複雑で深い関係と、彼ら一個人としての各々の想いは、彼らの作り出す「作品」をただ享受している我々には想像が難く、何か特別な存在であるかのように謎めいていました。
しかしながら、この映画の中でのカメラ越しのシャルロットの視点とファインダー内のジェーンの表情は、誰もが共感できるような普遍的な母娘のパーソナルなそれで、複雑な過程を経た家族の中で、ずっと子供のころから感じていた母の愛への渇望と、これからずっと貴女と一緒にいたいという切望であり、娘から母へのあけっぴろげで最大のラブレターがここにありました。
それが明かされたエンディングの海辺でのモノローグのあと2人が抱き合う瞬間、母娘がたどった数奇な人生と、抱えてきた孤独、そしてお互いの深い愛(憎しみや嫉妬も含め)を感じ、その素直さに心が震えました。
※数奇で特殊な環境であるが、母娘、親子、家族、としてとても普遍的な心情が描かれて語られています。

映画はジェーンBのドキュメンタリーですが、スターとしてのアーカイブではなく、娘が母を知りたいというパーソナルな関係の記録なので、ジェーンの若い頃のポップスターとしての過去映像は意図的にいっさい使われていません。内気で内省的なシャルロットが母を知る手掛かりを探りながら進んでいきます。

ジェーンの哲学、いつでもポジティブに素直に人生を生きる、人を信じ、好奇心を持ち、偏見をもたない。エキセントリックで繊細で不安を抱えながら、その哲学を貫いて生きて来た強さを、娘であるシャルロットが誰よりも理解し、「自分もそうでありたい、ママンになりたい、だから私と永遠に一緒にいて。」と、ナイーブな彼女が素直に心から吐露します。
時々彼女があのセルジュの娘であることを忘れますが、考えてみると、あのようなクレイジーで偉大な父と、ジェーンのような世界的で歴史的なスターを母にもつシャルロットのアイデンティティとは何か?本人にとってはパラノイアになる状況だと想像します。
前日、ストーリーオブマイライフ(わたしの若草物語)を見たばかりなので、ジョーと同じく、ジェーンもシャルロットも多姉妹の二女の立ち位置ゆえの葛藤、あるあるなんだ~、と理解が深まりました。

シャルロットのほうは10代の頃からファンでしたが、ジェーンBの方は世代が違うので、僕が初めて彼女を知った90年代、セルジュ・ゲンズブールといた頃の古き良き時代の輝く6,70年代のポップスターのイメージしかなかった僕は、近年慈善活動や東日本大震災の時も海外セレブで最も早く翌月には来日チャリティ公演するなどするのを見て、その暖かく誠実で真っ直ぐな人間性に意外性を感じていましたが、この映画でジェーンBの一個人としての魅力とカリスマ性を再認識&納得させられました。

ジェーンの容態急変により、6月のシャルロットの来日イベントもなくなり、その後7月に急逝を知りショックを受けましたが、
シャルロットが最愛の母の喪失というこの痛手から立ち上がり、自分の道を再び歩き出せるように祈るばかりです。
井手雄一

井手雄一