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i aiのvodkaのレビュー・感想・評価

i ai(2022年製作の映画)
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少し時間が経って、冷静に映画のレビューというか感想。

あえて誤解を招く言い方をすれば、この映画の良さはそのままこの映画の酷さであるという点だと思う。この映画としての酷さを肯定したい。

映画とは精神性や倫理観の問題であるとして、この作品は生々しい生態を描いても想像力とイメージを形づくる欲望が決定的に欠如している。良くも悪くも夢見るガラクタ山の大将とその子分たちの自作自演映画であり、当然こうなるしかない。この狭く閉じた世界で生きている者たちの叫びは、もはやサブカルやアングラの位置から聞こえるのでもなければ、恐らくそこへの憧れでもなく、ありふれた青二才たちの祈りとも言える甘えであり、慰め、共感を請う声でしかない。この映画はそういう自愛/自己防衛に満ちた凡庸で真摯なメッセージであるからこそ、恥ずかしがらず受け入れるかどうかという単純な二択を迫られ、そこに耐え方さを感じる人もいることは容易に想像できる。この熱量を素直に受け止められたことが個人的には嬉しかった。映画はある種の命懸けの闘いであり、単にこの作品は映画以前の闘いであるというだけ。それを否定することはできるはずもなく、むしろこの原始的なエネルギーの塊に希望を抱く。しかし、自分は既にそこを出ている以上、この映画の生々しい懐かしさに惹かれはしても、この記憶、この思い出を大切にして前に進みたい。実際いつまでも箱庭に留まっていても仕方ない。初な精神は愛おしくても磨かなくては光らない。例えばラブ&ピースの掛け声が何も訴えていないに等しいように。共に生きるためには、先立って孤独でなければならない。その点、マヒトは紋切り型の気持ちいい言葉に中途半端に逃げすぎてるように改めて思った。新しいものを何も見せないし、その意志すらない気がする。たぶんマヒトはどこかで音楽も映画も言葉も信用していない。コントロール下に置けない音楽、映画、言葉を恐れていて、そちらへ身を投げ出す気配を感じない。とはいえ、それでも思いのほかこの映画は好きだった、懐かしい匂いがして、久しぶりに個人的な映画になった。感想も個人的。どちらかと言えば批判的な言葉が並んだけれど、この映画はそれを肯定してくれていると思うし、そうすることでこの映画を肯定していると思っている。そう思わせる映画だった。

そしてしかし…江戸アケミが見たら、イジけるなとか言うのだろうと思った。かつては闘争へのファンファーレになったであろう映画が、いまは慰めと観客への請いに満ちた弱々しい(?)挑発になっていることが悔しい。勝ち負けはあるのであり、勝たなければならない。勝つとはどういうことかわからなくても。何がなんでもそう言い切る強さと優しさがなかったことが悔しい。弱者の共同体なんてお呼びじゃない。そうして尾崎豊の歌なんかを思い出したりして…?
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