ツクヨミ

ル・ミリオン 4K デジタル・リマスター版のツクヨミのレビュー・感想・評価

4.2
ルネ・クレールが贈るミュージカル風ドタバタコメディ。
画家のミシェルは食費や生活費を滞納し生活していたが以前買っていた宝くじが大当たり!だがくじ券が見当たらず…
ルネ・クレール監督作品。"ルネ・クレール レトロスペクティブ"にて鑑賞、クレール監督が"巴里の屋根の下"を撮った次の年に撮られた本作は、前作で築かれたトーキーとサイレントがうまいこと融合した世界観にドタバタ喜劇をぶち込んだ作品だ。その内容は喜劇王チャップリンを想起させるドタバタ感で、当たりくじが入っているはずの上着を巡った捜索と逃走と取り合いが全体を通して描かれている。
コメディの描き方としては実に巧妙、当たりくじが入っている上着が二転三転しいろんなところに渡り一人歩きしていく面白さ、上着に近づいているはずなのにどんどん上着から遠のいていくという苦労の面白さが良い感じでクロスカッティングする見せ方が素晴らしい。またオープニングの主人公ミシェルが借金の取り立てから逃げるのと強盗が警察から逃げる2つの逃走劇が交錯しめちゃくちゃになるドタバタ感も腹を抱えて笑いたくなるほど上手かった。
そしてクレール監督作品として今作は"巴里の屋根の下"と同じくトーキーとサイレントがうまく融合した作品だ。トーキーシーンは会話と環境音が鳴っているが、サイレントシーンになるとBGMがかかりそれ以外の音声が消失する。音楽の使い方がトーキーとサイレントでうまく使い分けられているのが実にルネ・クレール作品、特に今作は突然人々が合唱したり主人公に語りかけてくる妄想合唱がBGMみたいになっていてすごくミュージカル的だった。私たちが想起するミュージカルとは違い看板役者やダンスはないが感じさせる歌の力や使い方がめちゃくちゃミュージカル。
また今作は映像としてもなかなかに面白く、ズームインやズームアウト.クローズアップやローポジションショットが実にルネ・クレール作品であった。そして後半に舞台に忍びこむ主人公ミシェルと婚約者ベアトリスが舞台劇内容と同化するシーンはうっとりする美しさ。セットで作られた自然や月なのに降りかかる花びらで舞台全体が魔法にかかるような映画マジックがこのシーンにはある気がする。ビジュアル力も強くてミシェルとベアトリスが抱き合うように佇むカットがポスターになるのも頷ける。
ルネ・クレール監督トーキー第2弾として最高でめちゃくちゃドタバタ喜劇で楽しすぎる作品だった。トーキーとサイレントが共存する作家性が素晴らしすぎるぞルネ・クレール監督。
ツクヨミ

ツクヨミ