ぴんじょん

ル・ミリオン 4K デジタル・リマスター版のぴんじょんのレビュー・感想・評価

5.0
たわいもない話を最高の技巧で描く。

ルネ・クレール:レトロスペクティブで見ました。

たわいのなさでは一番といえるようなストーリーです。

当たった宝くじを巡る、追っかけとすれ違いの喜劇です。
にもかかわらず、そこに人間の運命の本質とでもいうべきものが潜んでいます。
すれ違い、裏切り、思わぬ幸運などという予想外の出来事こそが人生なのだと言っているかのようです。

偶然こそが人生。
だから、人生は楽しまなくてはいけない。

画家の卵(?)の主人公は画家にありがちの貧乏暮し、今日も借金取りに追われます。
ここの追っかけの楽しいこと。
後の展開の伏線ともなるどろぼうと警察の追っかけと混ざり合ってのドタバタは動きで笑わせる映画の本質のようです。

さて、彼を慕う隣の部屋の少女ベアトリスは彼のために尽くすのですが、なかなか受け入れもらえません。
なんと彼はモデルの女にうつつを抜かしているのです。

ここに一大事件勃発。
友人と買った宝くじが大当たり。
ところが、当った宝くじはベアトリスに預けた古い上着のポケットの中。
その古い上着は、ひょんなことからどろぼう集団の首領チューリップ親父のもとへ。
さらにニューヨークからやってきたオペラ歌手の舞台衣装へと渡っていきます。

それを追いかける主人公と彼に負けじと上着を追いかけるライバル。
ドタバタに次ぐドタバタ。
そして、舞台劇を見るような場面転換のテンポの良さ。

挿入される音楽もあいまって、ミュージカルの趣。
かと思いきや、サイレント的な絵や動きで見せる場面もあり、それが見事に融合して独特の喜劇世界を醸しています。

特にオペラの舞台セットの陰で主人公と少女ヴェルナールの逢引する場面の美しさは圧巻。
今回のルネ・クレール:レトロスペクティブのチラシにも使われているシーンですが、モノクロームの美しさは、におい立つがごとき。
極彩色以上の感動を与えてくれます。

物語は、宝くじをなくした主人公が借金取りに囲まれて、いかんともしがたくなったところで、すとんと思いもよらない解決をしてしまいます。
あまりにもあっけない幕切れは冒頭のばかさわぎにつながり、「この世は一時の夢、さあ楽しみましょう。」とでも言っているかのよう

なお、冒頭のパリの下町の風景からパーティー会場へとつながる俯瞰シーンは、圧倒的なセットと技巧に感嘆させられます。

たわいもない喜劇を最高の技巧で作り上げた珠玉の一編といえるでしょう。

117-0
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