幽斎

殺人美容師 頭の皮を剥ぎ取りますの幽斎のレビュー・感想・評価

4.0
私は美しい、誰しも別人に成りたいと夢を見るが、美容師のクレアは強迫観念から悪夢の世界へ足を踏み入れてしまう。のむコレ6、シネマート心斎橋で鑑賞。

本作は2020年リリース、ホラー映画の祭典Fantastic Festで上映、アメリカ、カナダ、イギリスでストリーミング配信された劇場未公開作品。好評に付きBlu-rayも販売されたが、批評家の評価と視聴者の温度差が割と明確な点が面白い。2016年に発表された15分の短編映画が各方面から絶賛され長編映画に結び付いた。先ずは一見アレ。
www.youtube.com/watch?v=d3Swer89tKQ

ジル・ガヴァーギジアンとナジャラ・タウンゼント。深い意味は無いけど字面がカッコ良いですよね。「好きな監督や俳優は?」と聞かれたら、是非答えて見たい(笑)。Jill Gevargizian監督、本名Jill Sixx Gevargizian、美人でオッパイも凄い39歳。短編を幾つか見たけどドレも秀作、才能を活かせる可能性も感じた。監督はヘアスタイリストとして活躍、その体験を通して本作を制作したそうだ。Jill Sixx役で出演も果たす。

Najarra Townsend 34歳。日本では「スリーデイズ・ボディ 彼女がゾンビになるまでの3日間」と続編「アフターデイズ・ボディ 彼女がゾンビと化した世界」有名だが、長編デビュー作「君とボクの虹色の世界」でも、脇役だがしっかり印象に残る演技を披露。短編を含めると98作品に出演するが、日本は蚊帳の外でトンと作品が入って来ない。彼女は監督のアプローチに賛同し短編に出演、本作にも進んで出資して足らない分はクラウドファンディングで賄う。銀色の物体を使うシーンは、その為のファンサービスだろう(笑)。ヴィジュアルも良く演技も確かなので、もっと見てみたい女優の一人でも有る。

日本酒に例えると菊正宗並みにアメリカの辛口な批評家が褒める一例を挙げると「色、照明、女性のファッションを上手く利用して世界観を作り出し、目の保養にも成る。魅力的な表面が醜いものを見事に覆い隠す」。「才能有る女性の悪寒と血生臭い誘惑、恐ろしく印象的なスタイル」。「本質的に女性的、ゴージャスな撮影とスタイルのビジュアル、キラーなパフォーマンスと粘着質な頭皮の剥ぎ取り、そして絶品の衣装」。「同情的なサイコパスに対して強くて明確なビジョンを示して、急増する連続殺人犯の洗練された描写の1つを提示してる」。決して褒めたレビューを並べた訳では無い。スリラーに素養の有る方なら、此の批評に何かが隠されてる事に気付くだろう(後述)。

不味いのは日本の邦題。私なら「ザ・スタイリスト 殺人美容師」にするけど「頭の皮を剥ぎ取ります」と付けたシネマート、ネタバレが過ぎるんじゃ無い?(笑)。まぁ、美容師の方は1000円で入場出来ますには笑ったけど。主宰する野村武寛氏のコメントが「イライジャ・ウッドのマニアックを彷彿とさせる迷作」と言うのは言い得て妙だが、殺し屋が美容師として働いて、依頼されたターゲットの頭の皮を剥ぐのかと思ったら、サイコパスな女性美容師が自分の欲望を満たす歪んだ願望を描いたサイコ・スリラーだった。

「頭の皮を剥ぎ取ります」に釣られてバリバリのスラッシャーを期待すると見事な肩透かしを喰らうので、ソコがシネマートの狙いと言えばソウだが、皮を剥ぐのは4回かなぁ位の曖昧な記憶しか残らない。ホラー派には猟奇的なシーンも無く、グロさを期待するとスケール・ダウンも否め無いが、私の様なスリラー派はアメリカの批評家達が褒めた様に気楽に楽しめた。お客が意識が有る内に皮を剥いだら、そりゃエライ事に為りますが幸いにも眠らせて或いは殺してから頭の皮を剥ぐので、Najarra Townsendのルックスやファッションに惚れ惚れしながら上品なスリラーだと見事に「錯覚」する。

一方でストリーミング視聴者のウケが悪い理由も良く解る。短編をスケールアップした宿命とも言えるが、尺を稼ぐ為に日常の仕事風景を淡々と映し出すシーンが多く、一般的なサイコ・スリラーは主人公のモノローグを被せ、観客に心情を察するサポートをするが、本作は表情也態度也を観客に察してね、と言う高等戦術を繰り出すので、お金を払って観てる方に内面まで考えろと言うのは、監督に少し謙虚さが足りない様にも見える。批評家が絶賛した裏の顔とは「短編で全て出尽くしてる」と言いたいのだ。

女性なら意見が違うのかと思い職場の友人にも観て貰ったが「何コレ、ムカつく」私より酷い感想に。でも「美人で仕事も出来ても自分の中で満たされない何かが有るのは分かる、女性の孤独は人を狂わせる」とも。確かに同じプロット、イケメンでリッチな男性が男性を襲う「アメリカン・サイコ」とは本質的には真逆に等しい。あと「女性がトイレで悪口を言うのはアメリカのテンプレで日本じゃ考えられない」確かに日本なら給湯室か(笑)。女性の繊細な心理を物言わず語るには、まだ演出力も足りない。作品もTownsendの存在感に頼り切りなので、もう少し勉強しましょう。女性の監督らしいのは、ぎこちない会話をそのまま切り取るので、観客は居心地が悪い気分に襲われる。

独身アラサーの私から見れば当然ですがTownsendは素顔もとても美しい。美人だからこそ本作のプロットも活きるが、ソレは短編に限ればの話。やはり長編では、他にもブレイキング・ポイントが無いと折角のコンセプトも霞んでしまう。映画自体のヴィジュアルは素晴らしく、才能とセンスを感じる部分も大いに有るので、良い脚本と出逢えれば、間違いなく注目されるクリエーターに成れる事は私が保証する。スリラーとして観ればオチも含め想定の範囲内だが、のむコレに選抜される価値は有るなと、帰りは久し振りの大阪気分を味わった。心斎橋のイタリア料理店チェッポはお勧め、ワインが進みます(笑)。
tabelog.com/osaka/A2701/A270201/27091710/

「The grass always greener」隣の芝生は青く見える、自分ではない何者とは誰なのか?。
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