巨大な摩天楼の中を車が空を飛び、ビルには芸妓のようなアジア人女性やコカコーラのロゴが映る電子広告が掲げられ、狭い路地にネオンサインと電子ケーブルが犇くという退廃的な光景が冒頭から広がる。この、東洋と西洋の文化が交わり煮詰まったような街並みが、未来のディストピアとして非常に説得力があり、降り頻る酸性雨も相まって鬱々とした雰囲気が漂っている。
扱う内容も、人造人間の自由意志を問うたニヒルで哲学的なものであることや、テクノロジーや管理がより進んでいることなどによって、かえって人間性への焦点が浮かび上がってくるようになっている。
これらがある種の官能性に到達し、観るものを陶酔させる魅力があるのは、サイバーパンクというジャンルにおける今作の影響力を見れば明白だろう。
「強い光ほど短命である」というレプリカントを諭した言葉が大好きで、プリスの断末魔の荒ぶりに見られる生命力や、ロイの最期における人間味の強さを見ると心揺さぶられずにはいられない。
感情が人間に近いからこそレプリカントであることに悲しみを抱くレイチェルも、逃亡という反抗を見せ、人間味に溢れている。人造人間に恋をするデッカードもまた人間らしく、SFであるからこそ煌めく「人間ドラマ」に感銘を受ける映画だ。