みーちゃん

最後の決闘裁判のみーちゃんのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
3.5
あらすじに書いてあることが、ほぼ全てだけど、私が予想したのとは、力点の置き方が違っていて、なるほど、と思った。

※本編に触れます。(鑑賞済みのかた向けです)


主要人物それぞれの視点で描くシンプルな三部構成なのが良い。時系列をいじくったり、交錯させたり、複雑な演出がないのが潔かった。だから、観客として、素直に事件に向き合うことができた。且つ、本来であれば、義母や、ピエール、ピエール妻など、人間の数だけチャプターの数があるんだなって、気づきを与えてくれた。

そして脚本。共同制作だけのことはある。マルグリットの強さや革新性、決闘シーンなど、派手で分かりやすい見せ場を作りつつ、本質的な部分は、ぐっと抑制して地味に表現したことに感心した。

先ず、何が起きたかの描写が、両者間で微妙にしか違わないことに驚いた。もっと大胆な齟齬があると予想していたから。それが逆に人間として、共通言語を持てないほどの違いを示していて、ずしんときた。

そしてマルグリットのチャプターの繊細さには、ハッとさせられた。(屋敷の主人としての才覚を感じさせるシーンも美しかった)夫のちょっとした言葉や仕草に傷つくのは勿論、同性の反応にも愕然とした。特に義母はあの日、敢えて彼女をリスクに晒したと思う。しかも自分の経験上"嫁を躾ける"通過儀礼だったのかもしれない。それでも、この義母は、世間的には清貧な良妻賢母で通用するのだろう。本作を通して、アンコンシャスバイアス(無意識のバイアス)について考えさせられた。

ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)の愚直なまでの騎士道精神や不器用な生き方は、理解できなくはないし、擁護してあげたい気持ちはある。でも哀しくて残酷なことに、最も面白味や人間味に欠けていたのは、彼のチャプターに見えた。