空海花

最後の決闘裁判の空海花のレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
3.5
Filmarksではわりと絶賛レビューが多いので、言いづらいのだが
結論から言うと私にはあまり響くものはなかった。

14世紀のフランスで実際に起こった事件を元にした歴史ミステリー。
夫の旧友ル・グリから強姦されたと訴える騎士の妻マルグリット
名誉のために決闘も辞さない夫カルージュ。
フランスで法的に認められた最後の決闘裁判の様子を三者三様の視点から描く。

「決闘ものをもう一本撮ってくれないか。羅生門的な脚本ができた」と
マット・デイモンからリドリー・スコット監督に声が掛けられた。
脚本は他に『グッド・ウィル・ハンティング』以来24年ぶりのタッグ、ベン・アフレック。また女性パートのためにニコール・ホロフセナーがチームに加わる。
原作は、UCLAの教授エリック・ジェイガーが当時の公文書など資料を丹念に紐解いて描いたノンフィクション作品。
『決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル』

フランスとイギリスの百年戦争が背景にある時代、重苦しい歴史に見合う
曇天や雪景色は昏く
固そうな土壌や、硬質の甲冑、
重厚そうだがひんやりとした建造物
映像の観点から言うとさすがリドリー・スコットといえるビジュアル。
“決闘もの”という点は『デュエリスト/決闘者』『グラディエーター』を思い起こし、序盤で展開する血生臭い戦闘シーンでのマット・デイモンとアダム・ドライバーの姿に胸が高鳴ったのは確か。

以下ネガティブを説明するので
内容にも触れます⚠️


羅生門的構成─
三者三様による主観や思い込み、言い分。愚かさと滑稽さ。
それを表現するのには良い構成なのかもしれないが、結局題材とはミスマッチだったのかなと。
物語を三章に分けることで、その違いはかなり浮き彫りになってわかりやすい。
だが、分けずとも微細な違いを表現することはこれだけ実力者が揃えば可能なはず。
一番顕著な例をあげると
これは女性目線で私が苦手なだけかもしれないが、
●●●シーンを一つの視点で見ることはない。
まして法廷やミステリーが関わっているのだから尚更だ。
まさかの2回目に「え、これもう1回観んの?」と胸中呟いてしまった。
微妙(でもないけれど)な違いを描き分けたのはわかるし、描きたかったのもわかる。でも意外なものでも何でもなく、わかりやすい想像の範疇だったということ。

そしてこの事件、フランスでは有名らしく600年以上経った今も、歴史研究者の間で、誰が真実を話しているのか、
裁かれるべきは誰だったのか、が議論されており真相はまだ明らかになっていないらしい。
マルグリット目線を“truth(真実)”としていたが、もちろんそれ自体は映画なのだし悪くはないけれど、大丈夫なんだろうかと心配に。
ル・グリの章を考えるとかなり不名誉なのでは…
そしてここを“truth”とするなら1・2章はまとめてしまってもいいかな、とか。
義理の母親の行為とかも、その前提だし。
上記のことがあるからそうもいかないが、なら分ける必要がなかったのではというところに結局行き着いてしまう。
これなら『羅生門』の方が謎だし、後味悪くないし、面白いからなぁ…

封建的なあの時代に、一人の女性が
身の潔白を証明しようとした信念には感服する。
セカンドレイプのような質問
レイプでは妊娠しないという迷信めいた医術(修道士が医師の役割を担っていた時代か)
しかし彼女は知らなかった。
決闘裁判で負ければ偽証罪に問われてしまうことを。
知っていればこんなことはしなかったと劇中でも(嫌味っぽく)言っている。
騎士の妻が後から撤回できるとも思えない。
それでも声をあげたことに意義がある。
知らせなかったこと諸々がこの時代を表している。

何より恐ろしいのは
名誉や夫婦の愛などよりも
カルージュはル・グリへの私的な仕返しだったり男同士の面子の問題
ある意味名誉の問題なのはマルグリットだけ。
ただし夫への愛の証明でもない。
そして“決闘裁判”という神の配剤よりも
群衆にとっては娯楽として消費されるという胸の悪さ。
観ていて、胃も痛くなり気持ち悪くなってきて途中で薬を飲んだ😅
(これ、普通なら褒め言葉になることもあるけれど) 
ただ、決闘シーンの凄まじさや生々しさ、迫力に関してはやはりレベルは高い。
映像や個々の演技を考えるとそれほど低いスコアにはできないとも思う。
ただ少々吟味が足りなかった印象。
このスタッフ、キャストだからこそ、微妙な描き分けとそれゆえの長尺も許されるのだろうけれど…と愚痴も言いたくなってしまう。
歴史ものとしてはそれなりに興味深いし、そこに終始した方が面白かったような…感覚的に嫌な重厚さが先立った。

実はこれがどうして“最後の決闘裁判”になったかの理由が一番気になるのだが、明かされず。
“truth”を入れるのなら、そこにも言及してみてほしかった。

ラストに出る字幕もなかなかの皮肉。


2021レビュー#180
2021鑑賞No.395/劇場鑑賞#80


理解が足りん!とリドリー・スコット御大に叱られてしまうかも😭
尊敬しております…でもごめんなさい。。
空海花

空海花