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最後の決闘裁判のmegurosのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.3
歴史として参照される文献等の多くは男性によって、そして勝者によって記録されてきたものだ。実際の裁判の資料にも男性側の視点しか残されていなかったようで、映画化するにあたって制作総指揮のマット&ベン(有能)の2人はそこに抜け落ちている女性の視点こそが必要だと考え、「ある女流作家の罪と罰」のシナリオをてがけたホロフセナー(女性の脚本家)に参加要請をしたとのこと。

インタビューでは黒澤の「羅生門」に影響を受けていると語られているが、たしかに各自の証言は”藪の中”。主軸を変えて繰り返されるロンドによって、現実でもよく目にするような認知バイアスが描かれる。

日本でもレイプ犯罪や下着窃盗を事実無根として裁判で争うケースは少なくない。一体どういう神経なのだろう?とも思っていたが、もしかしたらこういう神経なのかもしれない。仮に同じものを見て体験しても、それぞれが決して同じ認知理解を得てはいないということの恐ろしさ。自分が知らないところで自分が誰かに自己正当化をしていないか気になったし、とにかく身の毛もよだつホラー映画だと感じた。

と、ここからは完全に邪推なのだけれども、ワインスタイン事件に端を発する世界的な#metoo運動に連なる話として仮にこの作品を捉える時、思い出されるのはそもそもマット•デイモン&ベン•アフレックのこの2人はハーヴェイ•ワインスタインに見出されてスターになったという事実だ。

出世作「グッドウィル•ハンティング」はミラマックス作品で、それでアカデミー脚本賞まで獲らせてもらっている。恩を感じてなのかマット•デイモンなどはワインスタインを部分的に擁護して炎上したりもしていた。以上も踏まえて考えると、この映画で描かれていたものは、ただ単純に#metooを支援するものだけでもなかったように思えてならない。つまりは、アダムドライバー(=ワインスタイン)への憐憫のようなものだ。
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