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最後の決闘裁判のniのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
5.0
今年のトップ3には確実に入るぐらい、傑作でした。パンフレットが無かったのが残念すぎる。やっぱりリドリースコットは偉大な監督だなと改めて思いました。今作といえテルマ&ルイーズといえ… ディズニー+で配信が始まったらしいですね。上映時間153分と聞くと長くて敬遠してしまいそうですが、実際に観てみるとあっという間に感じました。是非多くの人に観て欲しい作品です。

「カルージュの物語」「ル・グリの物語」「マルグリットの物語」と3部構成で違う者からの視点で物語を見つめることによって、各々の目に映る“真実”の違いが浮き彫りになっていていたのが凄く分かりやすくて、それを描いたところがこの作品のすごいところでもあると思います。ただ一つの真実は、最初から強調されていたようにマルグリット視点のもののみなのですが。加害者側と被害者側、男と女でいかに見え方が違ってくるのか、恐ろしいです。とても同じことを経験したとは思え無いぐらいでした。例えば、マルグリットが笑顔をちょっとル・グリに見せただけで、自分のことが好きなんだと勘違いされたり、マルグリットが初めて被害を夫カルージュに伝えた時に、彼の視点だと慰めるような感じだったのが、マルグリットの視点、つまり実際は、彼女に更なる性行為を要求していたり。男性の視点から観た“真実”が恐ろしいぐらい美化されていることがよく分かりました。
14世紀、日本で言うと室町時代が始まったころでしょうか。そのぐらい昔の出来事なのに、性犯罪の被害者女性への社会の目や、そもそも被害を信じてもらえないことが今も同じなんですよね。今は「レイプでは妊娠しない」ってことが信じられているようなことはないにしても、結局700年以上前と変わっていないことが沢山あると思います。そう考えると、今からまた700年経っても、それでもまだ社会には不平等なことばかりなのかもしれない。そうならないように、私たちが社会を変えていかなければいけないですね。
恐らくマルグリットは、歴史上初めて性犯罪に対して声を上げた女性なのではないでしょうか。普段、夫の“所有物”としか扱われていなかったのに、声を上げた彼女の強さには驚かされるほどです。
それにしても、あんなにあからさまにレイプをしておきながら、「俺はやっていない!」と主張できるル・グリがとても気持ち悪かった。でも私から見ると、それは“あからさまな”行為でしたが、本人は自分が悪くないと本当に信じていたのかもしれませんね。どちらにしても怖すぎるのですが… この映画を観てから、アダム・ドライバーを見るとなんだか複雑な気持ちになるようになってしまいました。(そのぐらい演技にリアリティがあった言うことですが)
決闘シーンは迫力が恐ろしいぐらいあって、刀のぶつかる音や馬の足音には恐怖すら覚えました。どちらが勝つのか、検討がつかなくて、すごく緊張しながら観ました。


(※以外ネタバレを含みます)
勝手に、カルージュがル・グリに負ける、つまりマルグリットが処刑されるのではないか、と思いながら観ていたので、決闘の結果は意外でしたし、少しほっとした。決闘に勝ったと言っても、当時の多くの人が信じていたように、神様が真実を言っている方を勝たせた訳ではなくて、偶然相手を殺せたから勝てたということ。だから迫力満点の決闘には返って虚しさを感じたし、マルグリットの被害という真実が信じられたのも偶然の結果という訳で… 恐ろしすぎる。決闘が終わって数年後、マルグリットと小さい子供が少し映り、カルージュは数年後に戦で死に、マルグリットはその後も再婚せずに生涯を送ったみたいな(後半違う気がする)テロップが出て映画は終わるわけだけど、子供の父親がどっちか分からないのがすごく怖かった。
この作品の素晴らしいところのひとつに、マルグリット視点の部分の脚本はちゃんと女性が書いたことがあると思う。だから彼女の行動言動に、観客が共感しやすくなったんだと思う。
もっと書きたいことがあったはずなのに、いざ書くと何も書けなくなってしまった、、
興行的には失敗に終わったようですが、賞レースでは評価されますように、、
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