ベイビー

最後の決闘裁判のベイビーのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
3.8
勝てば官軍
勝った者が正義

あるスキャンダルの真相を追及しようとする話。でもそこに"真実"は必要ありません。ただ求めるのは自分自身の"正しさ"のみ。旧知の仲であるカルージュとル・グリは自分自身の正しさと名誉を守るために命を懸けた決闘を行います。

勝った者の言い分だけが正しいのだ。という己れのプライドを賭けた闘い。いかにも中世の騎士道といったお話ですが、史実を基にしているというだけあって妙に生々しさを感じてしまいます。

噂には聞いていましたが、黒澤明監督の「羅生門」をフォーマットにしたような三つ巴の回想劇。カルージュとル・グリとマルグリットの三者の視点から"事の真実"を追い求めるのですが、先程でも話したとおり、この時代の人たちにとっては"真実"なんてどうでもいいのかも知れません。

てっきり途中まで「羅生門」同様、最後に真実が明かされて人間の"業"というものを浮き彫りにするお話だと思っていたのですが、結局はそれすらも曖昧のままにとどめていました。

でも、かえってそれが良かったですね。この物語は"真実"を追及したお話で、その"真実はマルグリットの心内でしか知り得ません。ましてやこの物語が史実に基づいているのであれば、実在していた当時のマルグリットの心中を探ることなんて不可能ですから答えなんてなくて正解だと思うんです。

終盤まで"真実"を追及するサスペンス色を強めながらも最後は力ずくで物事を解決してしまう力業。なんかこの不条理さというか不道徳さで解決する後味の悪さが逆に気持ちいいですね。

「真実はあなたのご想像にお任せします」的な伏線の張り方も丁度いいと感じました。特にマルグリットが馬の姿と自分を重ね合わせる幾つかのシーンは彼女の心情を複雑化し、より彼女の真実を見えにくくしています。とてもいい演出。

そしてラストの死闘もとても重々しく、痛々しく、"正に漢と漢の闘い"。といった感じでたいへん見応えがありました。
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