うえびん

最後の決闘裁判のうえびんのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
3.9
支配と従属

2021年 アメリカ/イギリス作品

重厚で見応えのある作品だった。1つの事件を3人の視点から描き出す3部構成は、黒澤明監督の『羅生門』が踏襲されている。

舞台は14世紀のフランス、英仏の百年戦争の真っ最中。史実でしか知らなかった時代の空気が感じられて興味深い。600年以上経っても変わらない人間の普遍性も見えてくる。

①騎士:ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)
勇猛果敢で生真面目で不器用なカルージュの生き方に中世の騎士道が垣間見える。彼が付き従ったのは、「騎士道」における名誉、国王と神か。

②従騎士:ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)
十戒を守れず聖職者を諦めて騎士になったというル・グリ。世渡り上手な彼が付き従ったのは、実利とそれを与えてくれる直属の領主ピエールか。

③娘・妻・母:マルグリッド(ジョディ・カマー)
「権利などない。あるのは男の権力だけ。」極端な男尊女卑と政略結婚、当時の女性が置かれていた苦境が垣間見える。父・夫・息子、彼女が付き従わざるを得なかった男性、自ら付き従った男性、それが時とともに代わってゆくのが印象的だった。

“真実は藪の中”。語る者の立場が違えば“真実”が歪められて伝えられていくのは、現代にも通じること。裁判が公正・中立になりきらないことも然り。

「決闘裁判」とは、一向に解決を見ない争いの決着を神にゆだね、命を賭けた決闘で解決する方法。勝敗は戦いの強さによって決まるのではなく、真実を知っているのは神だけであり、その神が“正しい者”を勝利へと導く。いわば究極の裁判=神判として、中世ヨーロッパで正式な法手続きとして広く認められていたそう。

カルージュの信じた神は、マルグリッドが貫いた信念を神判したのだろうか。

カルージュ、ル・グリ、マルグリッドの3人の視点(事件の真相)に大きな違いは無かった。(故に冗長的に感じてしまうところもあった)一方、神判によって何らかの支配と従属から解放されたのは誰か、それは火を見るよりも明らかだった。
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