タチユロ氏

カード・カウンターのタチユロ氏のレビュー・感想・評価

カード・カウンター(2021年製作の映画)
3.5
刑務所から出所してポーカープレイヤーとして生計を立てている男ウィリアム(オスカー・アイザック)。その腕は確かだが派手に稼ぐことはせず、小さな儲けを堅実に積み重ねていく。
彼の元に現れた若者カーク(タイ・シェリダン)はDVの末に自殺した父親のこと、その父はかつて捕虜収容所での任務についていて心が壊れたこと、そしてその上司に報復を目論んでいることを告げる。そして父の同僚だったテルに協力を求める。

今すぐにでも暴力衝動へと変わってしまいそうな鬱屈とした感情と、それを必死に押さえ込むかのように静かに生活する男。
まさにポール・シュレイダーが作る映画といった感じだ。

しかし、いつもより少し優しい映画な気もする。誰かのために献身的に行動して、誰かに許してもらうことで、自分自身を許すことにも繋がる。そんな前向きなメッセージが確かにある。
とはいえ、その気持ちの伝え方は「やっぱりお前おかしいよ」となるし、迎える結末もやっぱりポール・シュレイダーらしい顛末にはなっているのだが…

なんにせよ、ウィリアムを演じるオスカー・アイザックが色っぽいこと!精神的に問題のある人物というのはご承知いただいた上で、それでも優しいし頭もキレてカッコいい。
彼と行動を共にするタイ・シェリダンも気持ちのぶつけどころが見つからない若者を見事に演じていたと思う。

着実にカードを数えて冷静な判断を下す客観性と、相手の心理を手中に収める心理術。ポーカープレイヤーとしての彼の強さが、全てその過去の仕事に繋がるものだとわかった時に身の毛がよだち、それでいて切ない…
タチユロ氏

タチユロ氏