オルキリア元ちきーた

カード・カウンターのオルキリア元ちきーたのレビュー・感想・評価

カード・カウンター(2021年製作の映画)
3.5
「魂のゆくえ」を観て、小難しいレビューを書いたけど
こちらも同じポールシュレイダー監督の、同じ「贖罪・復讐」をテーマとした作品で
そしてやっぱり「結論は観てるアナタの中にある」な作品。

戦時中に捕虜収容所で拷問する任務を負わされ、その事で服役してる最中に「カード・カウンティング」というギャンブルの裏技を習得した主人公が、刑期を終えて細々とギャンブラーとして生きている所に、ギャンブラーを雇って儲けようとする富裕層から派遣されたエージェントの女性と、父親が主人公と同じ様に拷問任務からのトラウマによる家庭崩壊で失って復讐に燃える青年が接近する。
それによって、心の奥にしまい込んでいた兵役中の苦悩に再び蝕まれる主人公。


ギャンブラーの主人公ウィリアムテルを演じたオスカーアイザックは、作品イメージからするとちょっとパワーがあり過ぎるキャストに思う。
ホアキンフェニックスみたいな「後ろしか見てない陰鬱さ」が足りない様に思える。
父親の復讐をする青年カークにタイシェリダンも悪くないが、コレも爽やか過ぎるかな。どうせならケレイブランドリーとかバリーコーガンみたいなクセ強めの俳優が良かったのでは?
そう考えると、エージェントとして近付いてイイ仲になるラ・リンダ役のティファニーハディシュも、そして兵隊の上司だったゴード役のデフォー様も、ストーリーの内容を鑑みると全体的に「惜しい」キャストだった。

USA!と矢鱈と叫ぶDA PUMPみたいなオッさんギャンブラーのツラが「ウクライナ出身」と言われた事でゼレンスキー大統領にしか見えなくなってしまったのは内緒www

しかし、主人公が見る悪夢「アブグレイブ収容所の様子」は、観てるこちらまで吐きそうな地獄絵図でかなりエグい。実際はこの映像より数倍の悲惨さだったのだろうか。

ここからネタバレレビュー

テーマとして戦争のトラウマを抱えた元軍人の苦悩があるのだろうが、その苦悩をどうやって解消するか?が、本来の本作の…本作だけではなく、ポールシュレイダー監督の一連の作品の…キモになっているはずなのに、最後の五分の指と指を重ね合わせてずっとプルプルしてるのを眺めるだけのエピローグは謎。
監督がタクシードライバーの脚本を書いた時からずっと抱えてる「トラウマ」を、監督自身も昇華出来ずに持て余している様にさえ思える。

特別盛り上がるシーンも無く、静かに淡々と繰り広げられる主人公の葛藤からの、さらに静かに「見えない所で」復讐が果たされるクライマックスは渋過ぎる。嫌いじゃない。けど、観る時を選ばないと寝てしまいそう。