なべ

LAMB/ラムのなべのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
2.6
 「湿地」に続いて2本目のアイスランド映画。どんよりとした鉛色の空、寒々しい空気、低い彩度、光合成するには足りない日光。独特のムードがハリウッド産の映画を見慣れた目には新鮮。
 なんだけど、開始早々、人里離れた酪農家の日常が淡々と続き、入眠スイッチオン! 劇場が暑かったこともあり、映像はとてもいいのに暴力的ともいえる睡魔と戦うことに。早く物語を進めてくれ!と祈りながら、時折挿入される大事なシーンを見逃さぬよう何度も気合を入れ直した。
 隣の人など何度も寝落ちしててあまりにも気の毒なので、それとなく脚を組み替えたり、肘掛けに腕を乗せるなどして睡眠の邪魔をしてあげた。これから観ようって人は万全の体制で臨んで欲しい。
 話は単純。ほぼ童話の世界。それも子供の絵本、例えば桃太郎なんかと同じレベル。
 昔むかし、あるところに羊飼いの夫婦が住んでいました。2人には娘がいましたが死んでしまいました。ある日、一頭の羊が子供を産みました。驚くことにその子供は半獣半人だったのです。夫婦はこの子を我が子のように大切に思い、とてもかわいがりました…
 予告編からはもっと多くの情報が得られるが、それを書いてしまうと物語のほぼすべてを語り尽くしてしまうのでここまでにしておく。
 ホラーじゃないけど、それっぽい描写があり、ファンタジーのような雰囲気もあるけど、現実味は失わない。普段、悪質ともいえるひねった映画(例えばジョーダン・ピールとか)を見慣れてるから、裏読みや考察したくなる気持ちはわかるけど、これは素直に観ればいいやつ。宣伝文句にあるように、タブーの話でもなけりゃ、何かを厳しく問いかける問題作でもない。もっとシンプルでストレートなおはなしなのだ。
 お国柄なのかもしれないが、あまりにもひねりがなさすぎて、拍子抜けしてしまったくらい。え、それで終わり? 物語の着地がそこでいいの?
 せっかくちゃんと物語に寄り添ってきたのに、オチがそれなのかあ。桃太郎はおじいさんとおばあさんの待つ家に帰り、みんなで幸せにくらしましたとさ(そんなハッピーなエンディングではなくてバッドエンドだけどノリはそう)。ってか、せめて浦島太郎くらいのシュールさがあればまだ納得できたんだけど。
 例えばこれが映画学校の卒業制作なら、ぼくは満点をつけたろう。監督の名前をめっきり容量が少なくなった記憶スペースに刻んで、天才あらわる!と騒いだかもしれない。でもそうじゃないんだよな。まあ初監督作品だから覚えておこうか。
 てっきり、死んだ子を想う夫婦のもとに突然のやってきた幸せは、偽りの愛ゆえに徐々に夫婦を蝕み、破滅へと導く…みたいな観念的な映画だと思ってたのよ。ムードも撮影もそんなだし。
 違うの。そうではなくて物理的な話なの。不条理な何かが羊ではないものを産み落としたのではなくて、しかるべくして生まれたの。タブーは関係ない。全然関係ない。
 カンヌで観客が騒然としたのは、今どきこの結末はなくね?ってザワザワだったのではないか。子供だまし…そう子供だましなオチなのよ。これを許せるか許せないかが評価の分かれ目になりそう。ぼくは正直ガッカリした。

 この映画の半分はアダのかわいさでできている。クソかわいいんだよ。だからアダがかわいい、愛おしいと思えばそれでもう鑑賞終了でいいような気もする。オチはおまけと考えることにした。

 今回A24は制作ではなくて配給のみ。よそが制作した作品だけどA24っぽいから配給しようってやつ。思えば「荒野にて」もそうだった。「ある視点部門の受賞」って冠もそうだけど、“A24配給作品”には過度に期待するとガッカリする“未満”の作品が多い。今後、観る上でそれらのワードが出てきたらハードルを上げないよう注意したい。
なべ

なべ