YAEPIN

LAMB/ラムのYAEPINのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.8
約1ヶ月ぶりの映画館。
予告は結構前から見かけていたが、まだ上映していてよかった。

それにしても変な映画…。
『TITAN』にも相当面食らったが、本作もなかなかに奇想天外だし、大筋だけ見ると『まんが日本昔ばなし』にありそうだ。
桃から生まれた桃太郎、垢から生まれた力太郎、羊から生まれた羊太郎、といった具合に。

主人公のマリアとイングヴァールが営む農場は、アイスランドの広陵とした山岳地帯に存在する。
季節を問わず雪が残っていそうな山々や、そのふもとの広大な原っぱが多く映されるが、それらは解放感のある美しさではなく、むしろ太刀打ちのできない運命の不条理、それに対する寒々しい孤立を感じさせる。

この孤立無援の閉塞感は、本編中、この夫婦が携帯電話を持っている描写が一切ないことによってももたらされている。

本作に出てくるファッションや車からも、恐らく現代を舞台にしているはずで、携帯電話が存在しないはずは無い。
実際、イングヴァールの弟ペートゥルが車から放り出される際にスマホのようなものを投げ捨てられているので、携帯電話自体は存在しているのだ。
このことから、この夫婦だけが携帯電話を所持していない、あるいは農場の所在地は一切の電波が遮断されているのだと推測できる。

すなわちこの場所は、マリアとイングヴァール、そしてアダだけが存在を許されるサンクチュアリであり、外からの視線はふようなのだ。
むしろそれを侵そうとするものは、徹底的に排除されている。

特にマリアは、やっと手に入れた夫と子供と3人での安寧な暮らしへの執着を、時折冷え冷えとした意思の固さとして覗かせており、恐ろしくもかっこよかった。
とりわけ、あるものを追放した後のマリアの清々しさが際立っていた。

全編通してセリフ数はかなり抑えられており、不意に挟まる時間旅行の話、納屋に置きっぱなしのベビーベッド、家で手厚く飼われる犬猫とぎゅうぎゅう詰めにされる家畜の羊、といった断片的な要素で示唆されるものが多く、無駄に視聴者の心をざわめかせてくる。

それにしても、羊はメスも角が生えることと、アイスランドは夜でもあんなに明るいことは知らなかった…。
ずっと暗くならないことはいい事かと思いきや、昼夜のメリハリは意外と精神面で重要らしく、北欧の白夜地帯では自殺率が高いらしい。
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