Ricola

LAMB/ラムのRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

自然界や宗教などが絡んだ、もっと複雑な背景のある作品だと期待して観始めたが、正直わりと単純なストーリーなんだなとある意味呆気にとられた。
羊から生まれた半分羊で半分人間の不思議な生き物を、羊飼いの夫婦が自分たちの子供として育てていく様子が淡々と描かれる。そのなかで、人間の夫婦と半分羊の子の違いが浮き彫りになっていき、ほとんど常に不穏な空気が漂うのだ。


霧がかった山、風がさわさわと撫でる草原…。美しく寡黙な自然が彼らとその状況を見守っている。
それは窓のショットの多さにも反映しているようだ。窓は美しい自然をフレームのように切り取って絵画的に見せるためというより、単に夫婦を囲う環境とその変化を見せるものとして機能しているのではないかと考えた。

環境つまりこれから何かが起こるという予兆を、動物の視線からも感じられる。
室内飼育の猫は窓際に張りついて外の世界を眺め、外飼いの犬は人間を観察し山など辺りを見渡す。
彼らは次起こることを予感しているようで、何かを警戒しているようにさえ見える。
とはいえ、その「起こること」への予感が、ただ「何か」が起こるだけで、それは具体性を含んだ的確だがやんわりとした暗示というわけでもないのだ。
だからこそ、「なんだかよくわからないけれどなんとなく怖い」というモヤモヤするような不思議な感情にずっと苛まれる。
その感情はおそらく先行きの見えない不安ゆえの恐怖心であり、ホラー映画なら当たり前のように喚起される感情なのだろう。
ただ、それにしても伏線にまとまりを感じられず、この作品のラストに帰結しうるものしては弱いように感じる。

例えば、羊の群れの絵画にズームインしていくうちに、羊の鳴き声も近づいてくるショットは、羊たちの復讐を予感させるものであったが、実際は集団で襲うわけではなかった。
意味深だが、ストーリー展開に一貫性をもたせるという点で意味のあるショットではないように感じた。

夫婦の子となったアダの疎外感。
彼は夫婦から愛情を注がれるが、夫婦との間に強固な絆を持てたかというとそうではないようだった。
夫婦とアダの叔父にあたるペトゥールが、ハンドボールの試合を熱中して観戦しているなか、アダはテレビの前に立ってポカンと見つめるだけである。まだ子供かもしれないが、感動や興奮を共有することの難しさを感じる。

アダの存在や「羊人間」の謎に関してはほとんど開示されることなく、単に母親から子を奪った身勝手な人物vs実の親というだけのラストになってしまったことに、個人的には物足りなさを感じた。
とはいえ、そこにわざわざ宗教や羊の生態などを絡ませて小難しくなんかせずとも、かつて子を亡くした女性が羊人間をすんなり奪い、ある意味自然や倫理に抗ったことを咎めるような内容というだけでも、十分社会や自然の恐ろしさや不可解さを提示できるのかもしれない。
Ricola

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