とりん

LAMB/ラムのとりんのネタバレレビュー・内容・結末

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

2022年88本目(映画館43本目)

観終わった後にすぐ出た感想としては何じゃこりゃと言ったところ。
劇中ほとんど会話がないため、登場人物の行動や表情からいろんなことを読み取らなくてはいけない。
マリアとイングヴァル、おそらくこの夫婦は羊飼いとしては立派に生計を立ててそれなりに幸せだったものの、子どもには恵まれず、生まれた子も幼くして亡くなったと思われる(途中で羊の子と同じ名前の娘の墓に参るシーンがある)。だから子どもを諦めていた夫婦にとって、あの時羊から出てきた異質の子を天から授かった自らの子"アダ"として受け入れたのだろう。
しかし実際にはその子にも産みの母はいるわけで、母羊はそこに子がいると感じ取り、家の部屋の外で鳴いていた。それにも嫌気がさしたマリアはその母羊を殺してしまう。その一部始終を見ていたイングヴァルの弟ペートゥルは、アダへの違和感とマリアへの狂気的なものも感じ取っていたのだろう。ペートゥルは元バンドマンで牧場の仕事も手伝ってはいたのだろうが、ロクデナシな人生を送ってきたことは伺えるが、彼が一番まともな人間だったのかもしれない。最初はアダを異質なものとして捉えてたし、どうにも正気には感じられない兄夫婦のためかアダを殺そうとする場面もあった。しかしその次のシーンではアダと仲良く寝てるシーンであって、そこから仲良くなっているように見えた。今ふと振り返って思ったけど、あの時持っていった納屋の銃は、その後一切描写に出てこない。もしかしたら最後に出てくるあのアダの実父とも取れる存在が、その時に奪ったのかもしれない。脅されて返されたのか、でもそれならアダを取り戻すだろうけど、そこは謎のままだ。
この奇妙な家族の映像を見せられつつも、壮大な自然の風景との対比でまた違和感を覚えざるを得ない。最後の結末が衝撃的とうかがっていたのでハードルを上げまくってしまっていたが、そうきたかという感じ。まぁなくもないなと思ったが、アレはさすがに笑いそうになった。しかもマリアは殺さないのか。でもやはり感じる違和感として愛犬を殺した時もヤツはアダの目の前にいたはずで、その時も取り戻す描写はなかった。やはり復讐をしたかったのだろうか。結末はもっと絶望というか圧倒的な恐怖的なものを与えるのかなとも思ってたけど、ヤツは愛するものを殺され、奪われて孤独になった悲しみを突きつけたかったのか。結局ヤツを見たものはいないことになってるし。アダとしても、育ての父でもあるイングヴァルが死んで悲しそうにしてたし、連れてかれるときも気にはしていたが、抵抗は一切しなかった。これ結構ポイントかな。そしてヤツはやっぱりアダの本当の父親なのだろう。羊小屋は施錠なんてしてなかったから入り放題だし、あのクリスマスの夜から始まったオープニングで、一匹だけ外に出て行ったのがアダの産みの母なのかな。振り返るといろいろ気づくところある。これはもう一度観るといろいろ発見がありそう。登場人物の名前もそうだし、おそらく宗教的なところも絡めたありそうで、この映画を全て理解するにには知識や気づきが全然足りない気がする。解説も欲しい。
個人的に最後に見せたマリアの視線誘導が気になって仕方なかった。
このマリア役、以前観た「セブンシスターズ」で圧倒的演技力を魅せてくれたノオミ・ラパスが演じている。この静かな狂気的なところや叫ぶシーンとか、最後のところも含めて今回もさすがと言える素晴らしい演技力だった。
とりん

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