カラン

LAMB/ラムのカランのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
4.0
アイスランドのホラー。

山間で牧羊を営む夫婦が、分娩したばかりの羊の赤ちゃんを、なぜか自分達の寝室で育て始めると、左手とお尻と足は人間のようだが、、、


☆可愛い

モンスターだけども可愛い、ホラーのキャラクターと言えば、グレムリン?ファッツ(アンソニー・ホプキンス)とかチャッキーとかは可愛くないもんね。本作『ラム』のアダ(本作の半羊の獣人ちゃんの名前であり、夫婦の死んだ幼子の名前)は、夫も夫の弟も最初は拒否反応を示すのであるが、すぐに絆(ほだ)されるほどに、ひたすら可愛い。むしろ怖いのは人間か。ただホラー映画に期待される怖さがあるわけではないので、☆を減らしといた。(^^)

本作を観た後に宮崎駿の『となりのトトロ』を観たのだが、トウモロコシを抱いて泣いているメイにヤギが迫るシークエンスがある。圧倒的に本作の羊ちゃんたちが可愛い、お父さん羊を除いて。本作のお父さん羊はちょっと人間に寄りすぎで、デビルマン?って感じで、VFXもいまいち。☆を減らした。(^^)


☆アナモルフォーズ

本作が強みを発揮するのは、固有の映画空間、背景の描写である。山の麓がすぐそこにあるような、そこそこ遠いような、距離感が分からない感じで、がっと屹立している。たぶん歪ませているのだと思う。アナモルフィックレンズっていう、歪ませるためのレンズを使った効果ではないか。それによって、アイスランドの地形を持ちながらこの世とは思えない、壮麗で怪しい映画空間ができる。

アレクサンドル・ソクーロフはよくアナモルフィックレンズを使い、ロケで固有の空間性を出しながら、アナモルフォーズによってユートピア的な幻想をロケ地の歴史に立ちのぼらせて映画空間を仕上げる。ソクーロフの『マザー、サン』(1997)の森の道におかしな角度で立ち上がる崖や、『ファザー、サン』(2003)のポルトガルの石畳みの路地に奇妙な角度に立ち上がる建物の壁面。ソクーロフはこのようなおかしな仕方で人物の常識と日常の地平に屹立するY軸を、見事に作り上げていた。本作の山は、ソクーロフ的な歪みを映画空間に作り出し、かつ、美的である。

が、何というか、その。ドイツのARRI社謹製のハリウッド御用達デジタル式カメラなのだろうが、霧の質感とかが、、、ねえ。うーむ。ソクーロフのアナログ撮影した歪んだ世界が持つ審美的な空気があるにはあるが、究極的なレベルで美しくない。結局デジタル撮影って、粒子の質感がVFXで構成したものと変わらないと思うんだ、たとえどんなに上等なカメラを使ったのであってもね。フィルムを通すことが大事なのかもね。☆を減らしといた。(^^)


☆ノオミ・ラパス

彼女はスウェーデンの女優さんだが、マルチリンガルらしい。本作はアイスランドだから彼女はアイスランド語を話している模様。実はアイスランド語じゃなくて、スウェーデン語でしたって言われても分からんわけだが、大事だよね。アイスランド語で抱かれるおどろおどろしい濡れ場をこなしている。いいと思う。ヨーロッパで活躍して、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド等々、色んな言語を話す役にチャレンジしてほしい。なお、本作は劇中でラジオを流して、アイスランド語を撒き散らすアイスランド映画。マイナーな固有性の散布による映画作りが嬉しい。





レンタルDVD。画質良し。音質良し。SEはすごく充実している。冒頭の吹雪のシーンなどずっとやって欲しくなる。ホラーらしい、立派なサウンドだ。
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