キノ

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲のキノのレビュー・感想・評価

4.7
クレしん最高傑作。離別や死以外で落涙する数少ない名作で、その演出にモンタージュを使った監督も凄い。ルパンを壊しつつのカリオストロが宮崎監督の力量を見せつけると似ている。

「なんでこんなに懐かしいのか」とヒロシは言う。それを私も何年も考え続けた本作。まさに、筆舌尽くしがたい。

↓というわけでネタバレ長文


↓あのモノローグは伝説

子供時代には存在した「未来」を、大人は喪失している。昔の自分との離別し、「過去」は死亡した。その悲しさを、成就せぬ初恋と、夢破れたギターに描き出す事で、観客に突きつける。この突撃力を上げるため、変身ヒーローや魔法少女になりたかった・なれなかった過去の自分をギャグ化して、「現実」を知る観客を笑わせた後、唐突なモノローグで初恋・夢を描く。突きつけられるのは、人生は、「なりたかった・なれなかった」の連続だということ。その現実を突きつける。

つまり、過去にはあった未来―それは現実に殺された。

それがモノローグの前半。後半は、それを癒やす。

我々同様、ヒロシは未来を失う一方、得たものがある。それがミサエで、春日部のマイホームで、そして子供たちだと、再び突きつける。その突撃力が上がるのは、クレしん漫画全体でギャグ化して描き続けていたから。これが本作の面白い構造。ヒーロー・魔女っ子は映画内で積み上げたものだが、「家族」は作品全体で積み上げてきている。そして、モノローグラストの自転車シーンで、ヒロシが得たもの・人・犬を、絵的に増加させる事で、突きつける。

つまり、未来を喪失し、代わりに獲得する現在―それを家族が思い出させる。

何故懐かしいか。何故なら、それが未来への追悼で、同時に今を思い出すから。

この筆舌に尽くしがたいテーマが数分のモノローグに詰まってる。しかもそのテーマは作品ラストで否定するのが気持ちいい。

それが、しんのすけ。

覚えたての現在(いま)。未来しか見えてない。
キノ

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