てっちゃん

裸足で鳴らしてみせろのてっちゃんのレビュー・感想・評価

裸足で鳴らしてみせろ(2021年製作の映画)
4.1
珍しくこれ観てみたいって邦画がいつものミニシアターにて上映されるらしいことを聞きつけ、行ってきました。

なんで気になったんだろう。
たぶん予告宣伝でちらっと見たのと、良いらしいという評判が聞こえてきたからでしょう。

なかなか観に行けるタイミングが合わないなと思っていたら、なんとかぎりぎり最終日に観に行けました。

さて本作は日本の若手有望監督たちの作品を製作するプロジェクト"PFFスカラシップ"のもと、制作。
あまり邦画を観る機会が少ない(その昔、金の力で過剰に宣伝打って、それはそれは酷い作品を数多く騙されて観た経験から過剰な宣伝を無視するようになっていたら、本作のようなインディ作品って本当に宣伝されないんですね。だからめちゃくちゃ良い邦画だって絶対多い筈なのに、それを私みたいな映画ファンにまで届かないのが本当にもどかしい。だからこそミニシアターに通う、有益なSNSをチェックすることは私にとって欠かせないものとなっているわけですが、それでも限界はありますが)のですが、本作の輝きっぷりは大変に素晴らしく、鑑賞後の「ああ、良い映画観たな」感が格別でした。

本作のパンフは非常に親切で(正直言うと、親切すぎて説明しすぎ感あるけど)、鑑賞後に何度も読み返すこと必須。

そこに本作の監督である工藤梨穂さんの解説つきインタビューも載っているので、読み返してみると工藤梨穂監督さんの想いが伝わってくるのもあって、より余韻に浸ることができることでしょう。
また評論家の方達のコラムも非常に面白く、工藤梨穂監督さんの述べていることを含めて読むと、作品への理解というか思いが、どんどんと深まっていくと思います。

それでは本作を観て感じたことなり、印象に残ったことを。

まず本作を観て誰もが思うことであろうことは反芻されることが非常に多いってこと。
過剰なまでにそれが描かれることによって、時には窮屈に感じることもあり、非常に息苦しくもどかしいものであるなと感じた。
と同時に、本作は紛れもない青春映画であることを感じることでしょう。

青春って言っても、わたしたちが世界最強☆みたいな感じではない。
自分の気持ちを分かりたいけど、そこに気づかない感じ。
分かりたいけど、その気持ちの正体を掴む、理解するには経験と知識がないから分からない感じ。
分かりたいけど、分かろうとしたいけど、自分のことで手一杯だから、その余裕がない感じ。
こうした"あの感じ"が画面から、漏れ出しているというか、充満していて、溢れ出ている。
そうした意味での青春映画である。

もちろんのこと非常に完成度が高いことも特筆すべきでしょう。
構成力、脚本の巧妙さ、繊細さは言うまでもないし、それを引き出す演出力が素晴らしすぎでしょ。

本作はその演出力を引き出す方法として、"音"にとても執着している。
その"音"を"感じる"ことを繋げていることに成功している。
登場人物たちは"音(実際に耳を通して聴こえる音もあるけど、聞こえない音もすごく意味を成していると思う=心情の変化を聞き取るということ)"にとても敏感であるし、演出面でもかなり注力している。

映画を観ることに於いて考えられないかもしれないけど、私は劇場で何度も目を閉じて、思わず耳を澄ませてしまっていた。
美鳥さんのように。
そうすると、ぼんやりと見えてくるんですよ。
なんとういうか、、パワーを感じるのです。
新興宗教かよって感じられるかもしれないけど、これ本当にやってみることおすすめしたいです。

あとはパンフに書いてあるけど、"染まっていく"ことがこんなにも気持ち良いのかと思ってしまった。
まだ出会っていないのに似ている。
出会ってから染まっていく(特に色彩に注目して欲しい)ところなんて、、単純だけどここまできれいに見せられるのか!と思ってしまう。

言うまでもないけど、ラストシーンの秀逸さは言葉を失ったくらいだった。
鳥肌たったもんな、本当に観て良かった、、と思わせてくれるラストシーンだったな。
大傑作"第三の男"みたいな心情になるラスト。
あのゴミ回収車の音声聞いたら、あの2人のこと思い出していくんだろうなって思った。

ここまで賞賛ばかりしていたけど、ちょっとなと思った箇所を。
作業着ぴかぴかすぎるだろ。
せっかく細かいインテリアにも拘っているのだから、いつまで経っても作業着がぴかぴかなのはおかしいでしょ。
まあこんなの本当に小さくて、細かすぎることなんだけど、完成度が高いからこそ、こうしたところが気になるんだろうなっていうだけ。

こんな素晴らしい邦画があるんだ!ってことを知れて、すごく嬉しかったし、あまり注目してこなかった邦画も観て行かないとなと反省したくらいに素晴らしい作品でした。
てっちゃん

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