シシオリシンシ

デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNINGのシシオリシンシのレビュー・感想・評価

3.8
本来、多くのファンが期待していたであろうアフターストーリーとはかなり性質の違った続編になっていて凄く困惑した、というのが正直な感想。

しかしこの02、期待と違った劇場版が公開されたことには前例があり、『デジモンハリケーン上陸』という02劇場版第1作目がメインターゲットの子供たちを置き去りにするダークでカルトで感傷的な世界観で、当時劇場で見ていた小学生の私は困惑したことを思い出した。

そういう意味で本作はそのころの挑戦的な精神性を引き継いだ、ある意味で02らしい続編映画とだと呼べなくはないのかもしれない。(メインターゲットであるオールドファンを置き去りにするところまで踏襲しているのはガッカリを通り越して痛快さすら感じる)

とまあ、上述のとおりかなり変化球な続編のため賛否が大きく別れる作りになっているのは容易に想像がつく。

まず、主人公が02の選ばれし子供たちではなく、本作からの新キャラ・ルイであり、彼の生い立ちやパートナーデジモンであるウッコモンとの出会いと交流・決別と予期せぬ再会・会話を通しての和解までを丹念に描いている。
この映画の視点の半分以上がルイとウッコモンのドラマに割かれており、彼に共感を抱けるかどうかでこの映画の評価は大きく変わってくるだろう。母親による幼児虐待を明確に思わせる陰鬱な描写や、ホラーと見まごうようなショッキングな演出など、後ろ暗い方向に振り切ったドラマが多く続くので見ていて心がしんどい。

奇しくもこの新キャラを主軸にした構成は『tri』で本来目指していたであろう方向性のドラマだったので、私としては本作の構成は「迷走しなかったtri」という印象である。

大輔たち選ばれし子供たちはルイとウッコモンの再会を手助けする役にまわり、彼ら個人のドラマは最低限に描くにとどめている。
多くのファンは「大輔たちのドラマを見せてよ!」と憤慨することやるかたないだろう。
しかし私は02の主人公たちって精神性がすでに完成されてて、成長の伸び代を描くことが難しく、今回のような新キャラのお悩み解決路線を選択したのではないかと推察する。
太一やヤマトなど、無印の主人公たちはそれぞれ思い悩む性格や欠落を抱えているからこそ、大人に成長してもその悩みや欠落がそのままスライドして新たなドラマを作り上げていた。
しかし02の主人公たちは良い意味でキッズアニメ的な竹を割ったようなシンプルな性格の人物が多く、特に大輔はおバカだけどチームの精神的支柱になるほど揺るぎない芯を持った主人公として完成された人物なのだ。闇を抱えていた賢やタケルを持ち前の明るさで引っ張り上げ、己の無限大の勇気でベリアルヴァンデモンの深き闇を晴らした最強メンタルの持ち主である大輔がいる時点で、彼らのさらなる成長を描くのは得策ではないと判断されたのではないか。

私個人としては大輔の変わらぬ明るさや、京のあっけらかんとしているようでまわり(特に賢)をよく見ているところ、賢の大輔への絶対的な信頼感や京への思いの芽生えなど、やってほしいファンサービスはちゃんとやってると感じることができたので、おおむね良しという感じ。

世界最初のパートナーデジモンや選ばれし子供たちとパートナーデジモンの関係性がウッコモンの力によって作られた仕組まれた出会いだったなど、無印や02に思い入れのあるファンをふるいにかけるような新設定が受け入れられるかも評価を分けるポイント。この設定自体は普遍的な友情のあり方という着地点を描くために使われており悪い印象は残さなかったが、人によっては「こういう設定自体が解釈違い!」と一蹴されかれない挑発的なものなので、もっとこう禍根を残さないものにしても良かったのではないかと思わなくはない。

私も本来期待していた続編とはまるで違っていて観ている間は戸惑ったが、人とデジモンを繋ぐデバイスが消えても友情は消えないというメタ的なファンへのメッセージや、ラストのルイの憑き物が落ちたような笑顔を見て、「悪くないじゃん」という観賞後感を味わえたので、今回の変化球を私は「02らしさ」として好意的に受け止めたい。
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