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スープとイデオロギーのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

スープとイデオロギー(2021年製作の映画)
4.0
「スープとイデオロギー」2022

ヤン・ヨンヒ監督の母オモニを通してみた朝鮮と日本の近現代史。

ヤン・ヨンヒ監督の映画を初めてみたのは「かぞくのくに」。朝鮮総連幹部の両親の元に生まれた男子3人女子1人の兄妹。朝鮮戦争直後疲弊した韓国より北朝鮮は経済的に発展している夢の国だというプロパガンダを信じて両親は3人の兄を北朝鮮に送り出す。「帰国事業」と呼ばれるものだ。

もちろん北朝鮮が夢の国なんてことはなくて日本にいる家族からの外貨が目当てだった。

なぜ両親は北朝鮮の実態がわかってきても送金し続けたのか?しかも借金までして送金し続けたのか?

その謎が「スープとイデオロギー」で明かされる。大病を患った母(オモニ)が何故か昔のことを話し出す。1948年4月3日に済州島で起きた死者3万人とも言われる大虐殺の現場にいたのだ。

冒頭のオモニの回想はすぐには回収されず映画はヤン監督のホームムービーの様に気持ちよさそうに酔う父(アボジ)や美味しそうなスープを作るオモニの様子。そして生真面目なヤン監督のフィアンセの登場と続いて行く。

そして冒頭のオモニの回想に次第に接近していく。

済州島で何が起きたのか?オモニの運命はどう変わったのか?オモニの国家観はどう作られたのか?

オモニが経験した出来事を通して戦後の朝鮮と日本の歴史に振り回された生涯が現れてくる。そしてオモニ本人は認知症になり目の前の娘すら忘れてしまう。つらい過去を忘れる事は幸せなのかもというヤン監督の言葉が重い。

映画館が明るくなってもしばらく席を立てなかった。宿題をもらった様な気持ち。すぐ近くの今はリゾート地として知られる済州島で起きた事を自分なりに調べてみようと思った。

映画は最初はヤン監督の撮影した画面のみ。ヤン監督はカメラを回しながらオモニやアボジと話す。後半は撮影はカメラマンに委ねられ監督は撮影される対象、登場人物の1人となる。

ドキュメンタリーとしては監督が取材者から取材対象に変化するというのが面白い。
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