近本光司

自画像:47KMのおとぎ話の近本光司のレビュー・感想・評価

自画像:47KMのおとぎ話(2021年製作の映画)
3.5
47KMという名で呼ばれる中国奥地の山あいにある集落。章梦奇は姪っ子と連れ立って、これから建てようとしている新たな家のちかくの木立で、スマホから「イマジン」を流す。彼女はまだ英語を解さない姪っ子たちに、ジョン・レノンの歌を中国語に訳して聞かせていく。想像してごらん、国なんてない、殺す理由も死ぬ理由もなく、みながただただ平和裡に暮らしている世界の姿を…。14歳の女の子はそんなのありえないよと呟いて、5歳の女の子は枯れた木の枝をつかんで揺らしながら「見て見て、この木も踊ってるよ」と愉しげである。わたしはこの中国の田舎娘たちが聴き入るさまを見ながら、これほど感動的で美しい「イマジン」ははじめて聴いたと思わず落涙してしまった。
 章梦奇による47KMの『自画像』シリーズは、三年前にヤマガタで観た『窓』以来。あちらはあまりピンと来なかったが、これはとてもよかった。章梦奇だけでなく、姪っ子たちもカメラを手に取って、お互いの姿を記録に収めていく。子どものおとぎ話が現実になっていく過程。彼女たちのつぎの作品にも期待が膨らむ。