スプリングス

灯せのスプリングスのレビュー・感想・評価

灯せ(2021年製作の映画)
4.5
2021年が終わろうとしている。
今年が終わろうとしている。
12月25日の寒空の下。
クリスマスの明るげな音楽と行き交う人々の雑踏が街を賑わしていた。
以前のように──とはいかないが、街は少しずつ活気を取り戻しつつあるようだ。

2020年の頭から今も続くこの非日常。
日常化する非日常のなか。
“eradication”ではなく“with”が提唱され、生活が様変わりすることに「しょうがない」を呟く日々。

当時、この“やるせなさ”を綴った様々な楽曲が生まれた。
2020年の終わり頃、僕が聴いていたのは『F2020』だった。今年を呪い、中指を立てる曲。思い返すと、ある種の願掛けをしていたのかも知れない。来年は良い年になりますようにと。こんな状況は2020年だけでありますようにと。結果、2021年も相変わらず非日常が続いている。

2021/12/25 池袋 18:45
僕は『灯せ』という映画を観た。

表現の場を奪われた表現者たちの“あの頃”を描いた物語。

映画という形で“あの頃”に向き合うのは初めてだった。ニュースやYouTubeの動画とは違う。物語として、感情としての“あの頃”が記録されている。それが嬉しかった。

この映画は、池袋シネマ・ロサでの上映は年内いっぱいらしい。聞いたわけではないので定かではないが、これもある種の願掛けなのかなと思った。

時代に中指を立てても何も解決しないと知った僕ら。この胸のモヤモヤのぶつける先を見失った僕らは。
それでも舞台を歩く。
幕が上がるそのときまで。

2021年が終わろうとしている。
今年が終わろうとしている。
12月25日の寒空の下。
劇場を出ると雪が降っていた。
上を見ながら、DEGさんが歌う主題歌『No picture』を聴いた。

「何も終わっていない」