KnightsofOdessa

Kairat(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Kairat(原題)(1992年製作の映画)
4.0
[カザフスタン、ある少年の恋] 80点

デビュー短編『July』でも描かれていた電車と映画館が本作品でも登場する。とはいえ満員の劇場で観ている映画が全裸の男女が荒野で抱き合ってるシーンなので、観客全員が無表情のままスクリーンを見上げてるのは実に滑稽。本作品にはこのような不思議なシーンが多々ある。なんの脈絡もなく母親を地上に待たせて観覧車に乗って、途中で止められたり、試験でカンペ問題に巻き込まれて会場を追い出され、その足で運転シミュレーションに乗って遊んだり、電車で窓の外を眺めていたら石を投げ込まれたり。そして、そのほとんどの場合で動作や行動を中断させられ、宙ぶらりんのまま次のシーンへと流れていく。軸となるのは映画館で出会ったインディラという電車で働く女性とのロマンスで、彼女への愛情と一種の恐怖から妄想と広がって悪夢に襲われるというもの。その全てがシンプルで淡々としているが、終始宙ぶらりんな状態とは絶妙にマッチしていて、溢れ出そうな感情を必死に覆い隠しているような妙な豊かさすら感じてしまう。殴り合いが鳥の羽ばたきになるシーンや新人コックとインディラとの駆け引きが電気のON/OFFになるシーンなど興味深い部分も多くあるが、ラストが一番良い。『デ・ジャ・ヴュ』のラストを思い出した。
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