MasaichiYaguchi

WHOLE/ホールのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

WHOLE/ホール(2019年製作の映画)
3.6
日本の生まれ育ちで日本のパスポートしか持っていない川添ビイラル監督と脚本・主演の川添ウスマン兄弟による、日本で暮らす“ハーフ”を主人公にした映画では、“ハーフ”という言葉をネガティブな意味で受け止め、自らのアイデンティティーに戸惑い、苦しむ若者たちの姿を映し出していく。
本作では、“ハーフ”という呼ばれ方を嫌い“ダブル”と言い直す中村春樹という青年が登場する。
春樹は親に相談せずに通っていた海外の大学を辞め、生まれ故郷である日本に帰国して自分の居場所を見つけようとしている。
だが、日本に着くやいなや彼は周囲から違うものを見るような目に晒され、長年会っていなかった両親にも理解してもらえない。
或る日、春樹は団地に母親と二人で暮らす建設作業員のハーフの青年・誠と出会う。
ハーフと呼ばれることを嫌う春樹と違い、誠は周囲とも上手くやっているようにも見えるが、実は国籍も知らず会ったこともない父親と向き合うことができない葛藤を抱えている。
ここから様々な出来事を通して彼らは「HALF(半分)」から「WHOLE(全部)」になるべく心の旅を始める。
「ハーフ」は元々は英語の「half-blood」「half-caste」という言葉から来ていて混血、異父母、兄弟、雑種といった意味を持つ。
しかし英語に「雑種」という意味があったり、半人前というイメージがある為、「ダブル」という「父と母、二つの故郷の文化を持っている」という意味合いで、本作の春樹のように言い換える人もいる。
だから英語では単にハーフだという意味を表わす時には“I’m mixed.”又は“I’m mixed race.”と表現する。
いずれにしても「混血」という表現は「純血」に対する言葉で、無意識であっても劣っているというニュアンスを含んでいるので、差別を生む温床になっている気がする。