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ミーシャと狼のblacknessfallのレビュー・感想・評価

ミーシャと狼(2021年製作の映画)
3.5
ボストン在住のホロコーストのサバイバーであるミーシャは地域のユダヤ人コミュニティからホロコーストの体験を話してほしいと依頼を受ける。
ここで話した彼女の特異な体験が話題を呼び、ある出版社から自伝の出版を持ちかけられる。

ミーシャはナチによってドイツに連れ去られた両親を捜し出そうと自分が住むベルギーの森を抜けドイツを目指す。しかし、当時7歳の女児のミーシャは森で路頭に迷う。そこに狼🐺が現れる。そしてこの狼🐺がミーシャを自分の群れに加える。ミーシャは狼🐺の群れに保護された。
この少女👧と狼🐺の交流がセンセーショナルに喧伝されたことによりホロコーストの語り部としてミーシャは一躍時の人になる。

しかし、彼女の話は全部嘘だった!自伝の版権と印税の分配を巡りミーシャに訴えられ30億円の賠償を命じられた出版社社長のジェーンは指定された彼女の銀行口座の名義に疑問を持ち、ミーシャの出生調査を専門家に依頼して嘘が明らかになった。
しかし、本の取り分の裁判で30億ってちょっと考えられないよね。慰謝料的なのも上乗せされてるのかな?

調査の結果、ミーシャはユダヤ人ではなくカトリック教徒であり、当然、両親もユダヤ人ではない。名前もミーシャではなくモナーク。ナチの追及を逃れるために養子先で名づけられたと言ってたモナークが本名だった。
この衝撃の真実をジェーンが自身のブログに投下すると忽ち世界がミーシャの嘘を大々的報じ、彼女への怒りの声が世界から挙がる。
嘘をついてホロコーストを利用して金儲けしたわけだからミーシャへの風当たりは激しくなる。彼女を信じて同情してた人達ほど悲しみが深く怒りが強くなる。タイミングの悪いことに真実が公表されたのが自伝の映画の公開直後だった。
この映画、お蔵入りになったりしたのかな?Filmarksの検索には出てくるけど、当時はどんな感じで受け止められたのか気になる笑

ここまで観て、自己顕示欲と金銭欲の強い虚言ババア最悪だな😖💦💨と思ったんだけど、何故ミーシャがこんな嘘をつくことになったのか?そしてホロコーストのサバイバーは嘘として実際はどうだったのか?を知ると少し印象が変わってくる。
ミーシャの父親は軍人でナチ占領下のベルギーでレジスタンス活動を行っていた。それをゲシュタポに知られ逮捕される。苛烈な拷問と脅迫に父親は屈し、レジスタンスの仲間の氏名をゲシュタポに教えてしまう。父の密告により捕えられたレジスタンス21人は全員処刑された。ミーシャの父と母もドイツに連行され殺された。
これだけでも幼いミーシャには辛すぎることだが、終戦後、父の密告が明るみに出てレジスタンスの慰霊碑から父の名前が削られる。ミーシャは"裏切り者の娘"として周囲から見られる。
フランスなんかもだけど終戦後ドイツの協力者へのリンチが頻発してたし、その空気の中で"裏切り者の娘"で居るのは想像を絶する辛さだと思う。

その辛く忌まわしい現実に耐えられず、ミーシャは空想の世界に逃避し自分の中の真実の物語を創造した。謝罪の声明でも「私の中ではこれが真実です」と記していた。
偶然が重なり本がヒットし嬉々としてスポットライトを浴び続けたのは許しがたいことだけど、彼女も間違いなく戦争の犠牲者だと知ると責めることができない。だからと言って本当のホロコーストの被害者の人達への侮辱だし庇うこともできないんだけど。

このやるせなさは『レイチェル 黒人と名乗った女性』と同じだと観ていて気づいた。
レイチェルも白人の両親の虐待で負った心の傷を癒すために、心の絆がある養子の黒人の妹と血の繋がった姉妹と思い込むことで自分を立たせていた。
両方ともついてはいけない嘘なんだけど、その嘘がないと生きていけない背景があって、被害者の側面が強い。だから責める気が起きない。

基本、自分を守るための嘘であって誰かを貶めたりするような悪意がある嘘じゃないからな。これが、つるの剛士の外国人が畑からパクチーを盗んだと印象づける匂わせツイートのように明らかにヘイトクライムの犬笛を吹くための嘘なら、ディスりしばき、その腐った性根を揶揄して嘲笑いたくもなるんだけど、そういうんじゃないから。

つるの剛士のこれに関しては本当に盗まれたのでは、と信じてる方もいるようですが、嘘ですよ。バカのつるの剛士に育てられるほどパクチーは簡単なもんじゃないですから。パクチーを舐めるなよな😕
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