ルーマニアの近代アニメ学校の創設者イオン・ポペスク=ゴーポによる会話のないサスペンス映画。元々はデザイナー兼漫画家としてキャリアをスタートした人物であり、後に"Gopo's Little Man"と呼ばれる有名なキャラクターの生みの親となった。そんな彼の初実写長編作品である本作品は、その年のカンヌ映画祭のコンペに選出された。本作品は会話がまったくないコミカルなサスペンス映画だが、主人公がトボケ顔でギャグをやり過ごすタイプの作品ではないのがまず面白い。彼は常に巻き込まれた側の人間であり、自身の抱えるカバンに爆弾が入っていることを知らない。だからこそ異様に静かに作られた映画の中で、主人公の軽率な行動がいずれ爆発を引き起こすかもしれないという緊迫感が際立っている。しかし、最も異様な緊張感があるのは、爆弾を持つ前の冒頭10分なのだ。凹凸もなにもない絨毯を敷いたかのような人っ子一人いない平原で、一本だけ咲く花を拾い上げると、ヘリコプターに追われ、バケツみたいなフルフェイスヘルメットをかぶった人々に囲まれてしまう。ヤンチョー・ミクローシュやガール・イシュトヴァーン『The Falcons』みたいな平原を思い出すロングショットが強烈。