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スワンソングのsymaxのレビュー・感想・評価

スワンソング(2021年製作の映画)
3.7
"ヴィヴァンテある?"

今日もパットは食堂からくすねた紙ナプキンをバカ丁寧に折りたたむ…ここはオハイオ州サンダスキーにある老人ホーム…パットの心には"あの頃"の思い出が…"私は、『ミスター・パット』帰ってきたわよ…"

虚しい毎日を過ごすパットの元に、かつての親友リタの弁護士が訪ね、リタが亡くなった事、リタの死化粧をパットに頼む旨の遺言があった事を伝える…一度は依頼を断ったものの、"あの頃"の思い出に突き動かされるかのように、老人ホームを抜け出すパット…

…白鳥の歌声は、死の直前が最も美しい…

本日、シネスイッチ銀座は、"レディース・デイ"四方八方素敵なお姉様方の中にぽつんと座る私…またもや鑑賞のタイミングを間違ってしまった…なんとなく居心地の悪さを感じつつも、前評判の高い本作を鑑賞。

一心不乱に紙ナプキンを折り、介護士の言う事を徹底的に聞かない頑固ぶりからも認知症かと思わせるスタートから、自らの過去を巡る旅路の中で徐々に過去が紐解かれていく展開…それは親友を天国に送るための旅であると同時に、パット自身の人生を振り返るための"終活"とも言える旅路…指輪が増える度に、頑固なオヤジから、本来の自分の姿を取り戻していくウド・キアの演技に魅せられていきます。

人生の終わりをどう捉え、どう過ごすか…私自身にとってもそう遠い話ではなくなってきているので、身につまされる寂しさや侘しさを感じつつも、自分に正直に我を貫くパットの旅路を何処か羨ましく感じた次第で…

また本作のもう一つのテーマとしては、"ゲイ・コミュニティ"の一時代の終焉が描かれているようにも感じます。

昔ながらのゲイ・バーが閉店に追い込まれ、同性のカップルが子育てをやり、以前ほどの恐怖感は無くなったエイズ…

"ゲイ"である事を社会が受け入れて、ごく普通になった反面、パットのような強烈な輝きを持ったカリスマがいなくなった寂しさが作品全体を覆っているような気がします。

散々好き勝手にやったパットの旅路は、パットの最大の魅力である人間臭さと計り知れない優しさを魅せて終わります。

"また、何処かで…"
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