CHICORITA主任

笑いのカイブツのCHICORITA主任のレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.6
伝説のハガキ職人ツチヤタカユキの同名私小説を岡山天音主演で映画化した作品。

素人投稿者がお笑い芸人にフックアップされプロとして活躍するサクセスストーリー…では全くなく、笑いに人生を捧げるあまり世間から乖離し、狂人じみた言動を繰り広げる主人公の生きづらさを、これでもかと叩きつける強烈な映画でした。

コミュ障かつ周りに迎合しない我の強さ、ストレスを過剰な飲酒で誤魔化したり自殺未遂を繰り返すなどの精神的不安定さなど、とにかく「生きづらい人」のエッセンスを凝縮したような人物像を演じ切った岡山天音が本当に見事。彼の存在なしでこの映画は成立しなかったであろうことは想像に難くないです。見ていて圧倒される、凄まじい演技でした。
脇を固める仲野太賀や菅田将暉も素晴らしく、特に菅田演じるピンクの実在感がすごかった。

「正しく生きたい」というツチヤの叫びが特に印象的で、彼は彼なりの正しさを追求している求道者なんだけれども、正しさの基準=常識が世間とはズレてしまっている。だからぶつかる、理解されない、阻害される、という悪循環。ツチヤのそれは映画的誇張もあって極端な例ではあるけれど、誰でも多少なりとも感じたことがあるはず。だから決して自分を曲げないツチヤの姿が胸を打ちます。ああはなれない、なりたくもない、だって苦しすぎると同時に思いつつ。

年始から年間ベスト候補に入りそうな、切実で真摯な映画に出会えた気がします。ぜひ劇場でご覧ください。
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