ねむろう

笑いのカイブツのねむろうのネタバレレビュー・内容・結末

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

2024新作_001


"おもろさ"だけ求めて、何があかんねん!!


【簡単なあらすじ】
笑いに人生を捧げるツチヤタカユキは毎日気が狂うほどにネタを考える日々を過ごしていた。念願叶ってお笑い劇場の小屋付き作家見習いになるも、愚直で不器用なツチヤは他人には理解されず淘汰されてしまう。失望していた彼を救ったのはある芸人のラジオ番組だった。番組にネタや大喜利の回答を送るハガキ職人として再びお笑いに人生をかけていた矢先、「東京に来て一緒にお笑いやろう」と憧れの芸人からラジオ番組を通して声がかかった。そんなツチヤは東京で必死に馴染もうとするが…。



【ここがいいね!】
「笑い」というものにひたむきな、むしろそれしか生きがいのないような男による、最終的には泥にまみれて、まさに血便にまみれた汚いものではありますが、素晴らしい人生讃歌だったなと感じました。
土屋が作品の中、そしてこれまでの人生の中で関わってきた様々な人物も、振り返れば土屋にとっては重要な「つながり」だったのだなと思います。
もちろん、それが絶対に避けたいような「呪い」のようなつながりになってしまう人もいのですが、それこそが人生だなと思いました。
物語のクライマックスで、一度、土屋は道頓堀のような川に身を投げて、そして実家に帰って、母親に「一度死んだ」と言いましたが、まさに彼がもう一度生まれ直したことを表しているように感じます。
それは、これまでの人生を否定するような描き方ではなく、これまでの人生を全て受け入れて、それでも残ったもの、それにもう一度向き合うような作品になっていたかなと思います。
東京で挫折をして、大阪に帰ってきたときに、飲み屋で絶望する土屋に、菅田将暉さん演じるピンクが「この世は地獄だか、お前は生きろ。」と言いますが、彼の世界だけでなく、今私たちが生きているこの世界もまた、地獄のようなものなのかなと思ってしまいました。



【ここがう~ん……(私の勉強不足)】
特に、東京編の中で出てくる「イヤな人たち」はただの「記号的なイヤな人」という感じで終わってしまった感はありました。
『愛にイナズマ』(2023)の三浦貴大さんや、MEGUMIさんのような、もちろん向こうには向こうの考え方はあるのだけれども、どうしたって冷たい感覚だけが残る人物設定になってしまっていたのは、もったいなかったなと思います。
また、作品の最後でベーコンズが「2時間ドラマの刑事をやりたい」という漫才をしますが、土屋が1回出して、「1回ブラッシュアップしよう」という話で終わっていました。
では、あれがそのままだったのか、加筆修正されていたのかというところも、少し気になるなと思います。



【ざっくり感想】
壁に頭を打ちつけながらネタを書き、そしてその打ちつけ過ぎてできた真っ暗な穴の中から聞こえてくる笑いを求めて、笑いの世界に入っていったけれども、そこで打ちのめされて、最終的に彼が言うところの「一度死んで」しまう結末を迎えます。
そして最後、その穴の開いた壁に、また蹴りを入れて突き抜けた穴の向こうには、おそらくリビングなのか、お母さんの部屋なのかが見えるだけ。
そこで土屋は、「しょうもな…」と言って、もう一度ネタを書き始めるわけですが、結局「何もなかった」というところから、もう一度始まるというところで、「強くてニューゲーム」みたいな、ここから彼はさらに強くなるのだなと、何かが吹っ切れたのだろうなということを感じました。
岡山天音さんの、あのずーんとしてるような、沈んだ雰囲気からは打って変わって、とてもさっぱりとした爽やかな感覚にすらなるような、面白い作品だったなと思います。
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