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笑いのカイブツのBremingerのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
3.6
自己中な人物が主人公な作品は基本的に好きになれず、今作もあらすじや予告を見る限りはそういう系統の作品だよなぁと思っていましたが、創作ではなく現実のツチヤさんの自伝というところに惹かれて今作を鑑賞しました。

夢を追い続ける邦画という事で「さかなのこ」がチラつきましたが、あちらがマイルドな狂気だとしたら、こちらはフルスロットルな狂気を醸し出しており、笑いのわの字もない苦しい作品でした。

はっきり言うと、今のツチヤさんがどうかは分かりませんが、この映画の中のツチヤさんがそっくりそのままだったら生理的に受け付けないくらいには嫌いな人間でした。
自己中そのもの、バイトは真面目にやらない(その割にはなぜかホストだったりコンビニだったり、接客を要するものばかりやっていたり)、発達障害に近いくらいの落ち着きのなさ(自宅の壁を頭突きで穴を開けたり、飲食店で突然皿を落として割ったり)、自分こそ一番と言う考えの割にはずっとネガティブなかまってちゃんで、酒の弱さで迷惑をかけるシーンなんかはもう害悪そのものだったと思います。

もちろん人間関係が不得意なのは共感できますし、自分もそんなに多くの人と交流を取りたいとか、積極的に関わっていきたいという気持ちは薄いんですが、コミュニケーションを取れないというか取ろうとしないツチヤの行動はかなりイライラさせられました。
真の天才は世渡り上手だと思うので、ツチヤさん自体が凄いというよりかは、周りの人に恵まれていたなと思いました。原作未読なので、オードリーの若林さんやピンクとの関係性はあるかもなーと思いましたが、ミカコさんなんて早々いないし、ミカコが気にしてくれるからってどこか甘えた部分を見せていたのは、完全にクズなんだろうなと思いました。
気にかけてくれるからユニバに誘おうとしたら、彼氏がいたとかいうざまぁな展開には笑いましたが、その後のキレっぷりは迷惑そのものだなぁと店側の気持ちになって観ていました。
TVの仕事にありつけたのに、挨拶はまともにしない、コミュニケーションは相変わらず取らない、やりたくないことはガン無視する、気に入らなければ楯突くといった、我慢する事は毒にしか思っていないくらいの自分本位で、挨拶なんて当たり前のことですら反抗してる感じなくらいやらないのは最高にイライラさせられて、自伝が元の作品という事は、実際に挨拶をしてなかったことをこの人は自伝に綴ったのかと思うとドン引きでした。
色んな価値観を分かり合っていかないといけないという風潮はありますが、こんな奴に寄り添い続けても少なくとも本人が変わろうとしないんだから、こんな奴は変わりもしないだろうとうんざりしてしまいました。

笑いに取り憑かれた衝撃も作品的にはチラッとでもいいから描いて欲しかったなと思いました。どうしてもイライラしながら笑いを追求してるマンになっているので、キャッチコピーのように魂が震える事はありませんし、恐らく吉本の作家会議的なところで盗作疑惑をかけられた時のキレっぷりにも説得力が無いなぁと思ってしまいました。

原作がどうなのかは読んでないので分からないのですが、ツチヤの大喜利やボケが全く刺さらず、よくこれで笑いに取り憑かれただなんだ言えたよなと首を傾げて観てしまいました。

今作は間違いなく役者陣の演技が最高に光り輝いていた作品だと思います。
岡山天音さんはどうしても演じてきたキャラクターがどこか苦手で、今作を観る前まではあまり好きな俳優さんではありませんでした。ただ、今作のツチヤという狂気と自己中の塊のような人物をこれでもかと演じ切っていたのが最高でした。
太賀くんの良い人っぷり、笑いに取り憑かれながらもしっかりと生きている姿がとても良かったです。板橋さんと太賀くんのベーコンズの漫才、令和ロマン監修というのも面白さに拍車をかけていたと思うんですが、お二人の漫才の掛け合いが本当に素晴らしく、この作品を観ていて一番昂ったシーンでした。
松本さんの朗らかな感じも良かったですし、菅田くん演じるピンクの裏表無い感じの人間模様が本当に素晴らしく、居酒屋のシーンしかり、バーのシーンしかり、この人がいたからこそ映画にメリハリが出ていたなと思いました。

せっかく掴んだチャンスですら自分の手で捨ててしまい、再び大阪に戻って再び自堕落な生活に…という終わり方、これが現実なのかという事を突きつけられましたが、どうしても成長してないなー、結局誰かに甘えっぱなしだなーと最後までモヤモヤさせられました。
道頓堀の下でまた発狂してるところなんか、カイブツはカイブツでも醜いカイブツにしか見えなかったです。
現在は関西で活動されているみたいなので、結果には繋がっているのかなと思うと安心するところはありますが、どうしても映画としての終わり方に納得はできませんでした。

映画というか演技合戦という意味ではここ数年の邦画でもトップクラスの作品だと思います。でもツチヤさんの事は最高に嫌いになりました。なんだか観終わった後も複雑な気持ちのまんまの作品でした。中々に新鮮な映画体験ができました。
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