前髪メガネ

笑いのカイブツの前髪メガネのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.0
苦苦しい空気感から伝わる人間関係不得手。

不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにしていた。毎日気が狂うほどにネタを考え続けて6年が経った頃、ついに実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう。失望する彼を救ったのは、ある芸人のラジオ番組だった。番組にネタを投稿する「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を掛けられ上京することになるが……。

まず、怪演とも言える岡山天音が凄い。
芸人の熱を扱った映画はいくつかあるが、構成作家という完全裏方の物語をここまで面白い作品に仕上げてくると思わなかった。

観終わったあと客電が付いてもスクリーンから目が離せなかった。
映画は終わってもそこに居たツチヤタカユキが消えていなかったからだと思う。

実話ベース、というか原作は本人著書。
正直、存じ上げていなかったが噂では聞いたことはあった。

オードリーさんのオールナイトニッポンにすごいハガキ職人がいて作家見習いになった人がいる。そんな簡潔な記憶だったけどこの人のことだ。

自分が一番面白い。
そこは芸人も作家も同じだけど、プレイヤーの芸人と違ってアドリブをきかすことができない分作家の方がひとネタに載せる重みは違うかもしれないことに本作を観てて気付かされた。ましてやテキストでの勝負。言い方などのアレンジも無し。

ケータイ大喜利は見ていたけどあの番組もすごいシステムだったなぁ。
ラジオは職人というほどでもなかったけど送ったこともあるし、運良く読まれたこともある。でもケータイ大喜利は運なんかじゃ読まれない。そんな世界のレジェンドって頭がどっかおかしくないとなれないなんて思っていたけど、本作のツチヤタカユキはまさにそっち側の人間。

自身がなっといくできる“面白いを“吐き出さないと死に至るような存在。
そりゃ高い学費払ってスクールに通ってなった作家なんかできるわけがないよな。妥協ができないからチームワークにも向いてないし、でも属するなら不可欠で。どうするのがツチヤタカユキにとっての正解かわからなかったけど、多分ひたすら書き続けるしかないのかもしれない。

ベーコンズの西寺との出会いはツチヤタカユキにとってはかなり大きく”世間”との関わり方を知り成長できたという意味でも必然の運命だっただろうなぁ。
西寺役の仲野太賀、相変わらずいい演技をする。
ちゃんとツチヤタカユキと向き合いながら歩き方を丁寧に教えてくれた恩人という作中のキーパーソンでもあるのだけど説得力がしっかりと伝わってくる。
自身も似た経験を経て売れたからこそどうにかしたいという気持ちが出てた。

そしてもう一人のキーパーソンのピンク。
芸人とかとは全く違いバイト先を紹介してくれたり、お笑いがわからないなりにツチヤタカユキを認め手応援してくれた存在。
正直観ていてこの役どころで、菅田将暉かぁとか思っていたけど後半の居酒屋でのシーンは凄かった。
このシーンで押されるような演技だと台無しになっていただろうから岡山天音の怪演に負けずぶつかれていた菅田将暉は良かった。

青春映画とかじゃなく、一人のお笑いに蝕まれた男の物語の映画。
広い層に刺さるとは言い難い題材だけど是非観て欲しい作品でした。
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