ごんす

笑いのカイブツのごんすのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.2
“人間関係不得意”で知られる伝説のハガキ職人ツチヤタカユキの原作私小説を岡山天音主演で映画化。
この笑いのカイブツというのがツチヤタカユキのことだと思って天才誕生譚のようなものを期待すると肩透かしを食らう。
またお笑いそのものについて考察するような内容でもないと感じたので彼のお笑いの哲学などは映画からはよくわからない。
一人の人間の人生のある時期を切り取ったような映画でそれ以上でもそれ以下でもない。
苦しく痛々しいが少し愛しくなる感じがした。

実際のツチヤタカユキのネタハガキは当時のオードリーのANNでよく聴いていたが最高だったし上京して作家見習いになることを勧めた若林氏がラジオで語っていたツチヤとのエピソードも面白かった。
作家として食っていける様にお笑い以外の情報番組とかも録画して見て勉強しておけよとのアドバイスに対してやりたくなさそうなツチヤは「岡本太郎や太宰治が好きな自分にとって皆が何を食べたいかとかパンケーキのこととか調べられない」と答える。
「じゃあどうやって飯食ってくんだ」との若林氏の問いに
「自分と一緒にやってくれる芸人さんとネタを書いてバイトして、朽ち果てていこうと思ってます」と…。
春日氏も「おそろしい男だねぇ」と笑っていた。
深夜ラジオならではの空気と芸人の話術でポップになっていたが基本映画のツチヤタカユキもこういう人。

しかし映画では実録犯罪者モノかと思うようなダークな冒頭で始まった。
一芸特化型の人間に憧れる時期はあったけどここまでネタを考えることだけに特化してる人って社会で本当に苦しいだろうなと思った。
しかし見方を変えるとバイト中もやりたいことしかやらないという態度のままだし、色んな人の役割や仕事を全く認めようとしない感じは弾かれる気持ちもよく分かる。

人間関係不得意なのに松本穂香と仲良くなれるんだ?とか結局甘やかしてくれる人がいるじゃんとか思うけどあれが終盤の白眉の居酒屋のシーンに繋がる。
終始岡本天音が凄い映画だけど菅田将暉もやっぱり天才だった。

全体的にもう少しお笑いそのものについての批評性のようなものもあったらもっと良かった気がする。
でも青春のこういう側面を描いた映画はとても好みだった。
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