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女神の継承のbackpackerのレビュー・感想・評価

女神の継承(2021年製作の映画)
3.0
タイ東北部のリアルな生活感(いっそ生々しいと言うべきか)が溢れる、土着の神々・精霊信仰(ピー信仰)を描いたホラー作品。

当方、ジャンプスケアでは「来るぞ来るぞ……」と思っていても飛び上がって驚いてしまうため、ホラー映画は苦手。
それゆえに、ホラー作品を劇場で鑑賞するのは映画祭に限られ、自ら進んでいくことはまずありません。
そんなホラー苦手マンながら縁あって鑑賞しましたが、案の定ジャンプスケア箇所で2回ほど、「ヒェッ!?」とビックリさせられました。あー心臓に悪い。


本作の舞台、タイ東北部のイサーン地方。神秘的でエキゾチックな風習が残るこの場所は、「祈祷師・霊媒師の一族に降りかかる不幸」を描いた物語の、影の主人公ともいえる、素晴らしい舞台装置でしたね。有無を言わせぬ説得力あるビジュアルで、村系ホラーに近い恐ろしさがありました。

パンフレットによると、タイでは現地の地方自治体Webサイト上に、地域の霊媒師に関する紹介がされていたり、"ピー"と呼ばれる神々・精霊のような超自然的存在(ピー・サーン・テーワダーというらしいです)がもたらす事件について、テレビのニュースで取り上げられたりするんだとか。
そういったお国柄の事情を踏まえると、生活感剥き出しな室内が放つ独特の雰囲気は、随分リアルだったんだなぁと納得します。
そういえば、ミンの部屋から呪術的アイテムを処分する際に、シマウマの置物が対象にされてましたよね。「なんだろアレ?」と不思議だったのですが、どうやらタイでは「人が亡くなった場所にシマウマの像を置く」というシマウマ信仰の風習があるらしいです。パンフレット読まなきゃ、一生腹落ちしなかっただろうなぁ。勉強になる。


映画を見て最大の成果は、「ホラー映画苦手だと認識していたけど、意外と怖くなかったぞ」と気付けたことでしょうか。
ジャッロ映画やスラッシャー・ホラー系のスプラッタ描写に慣れてしまったからか、終盤の儀式シーン等の物理的な残酷表現は、いっそ「こんなもんか」くらいの感覚でした。
勿論、怖い画作りの怖い映画とは感じましたが、夜も眠れなくなるようなホラーを恐れていた身としては、拍子抜けしました。


最後の最後に祈祷師ニムの涙の告白(「バヤンの存在を、本当は感じたことがない」)が最後に来る演出は、鑑賞終了後に色々と考えさせらる引き際で、それ自体は良いなと思います。
ただ、最低限このインタビューを撮ったスタッフだけでも、一刻も早く逃げ出すという選択をしてもいいんじゃないですかね。翌日ニムが睡眠中突然死しているわけですし。ホラー映画のお決まりに対する無粋なツッコミかもしれませんが。
(ちなみに睡眠中突然死は、タイではよくあることみたいですね。おいおい……。)

そういう根本的ツッコミは他にも色々ありますが、一番気になるのは、このドキュメンタリーは誰が作ったんだ?問題。スタッフが全滅したと思われる状況下で、誰がこの映像を回収し編集したのか、疑問です。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいな設定説明が入ってたら、違和感減衰するんですけどね。
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