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女神の継承のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

女神の継承(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

とても勢いがあり面白い。遠くに佇む女性の姿など、ところどころにJホラーの影響を感じるが、総体的な作りはPOV物やエクソシスト物となっている。

フェイクドキュメンタリーのていを取っているのだが、実質的には劇映画の撮り方、演出がなされている。

女神バヤンの巫女ニムの密着ドキュメンタリーを撮っていた撮影スタッフ。ニムはもともと巫女候補ではなかったが、長女のノイが巫女になりたがらなかったため、ニムがなることになったのだった。長男のマニによると、それ以来ニムとノイの仲はよくない。ノイの夫が亡くなったすぐ後に長男もバイクで事故死したという。そのうち、彼女の姪ミンの様子がおかしくなり、撮影スタッフは彼女の様子を追うことにする。

ニムのどっしりとした佇まいがよい。ミンの様子がどんどんおかしくなるのだが、叔母の彼女だけが冷静に事態の深刻さを理解した上で対処しているように見える。

長女のノイは自分が若い頃にバヤンの巫女となることを拒否したせいで、ミンにそのお鉢が回ってきたのだと思い、ニムに向けて娘を後継者にはしないと宣言する。中盤まではミンが巫女を継承するか否かで話が展開している。しかし、ミンと事故死した長男が近親相関的関係にあったことが明らかになり、二人の仲を許さなかった家族と世間を長男が恨み、愛する彼女をあの世に連れて行こうとしているという見立てをニムが行う。それで謎が決着するのかと思ったら、まだまだ裏がある。

ニムが頼った実力派の霊能力者サンティによると、ノイの夫の実家ヤサンティア家はたくさんの人間の首を刎ねたことにより、怨念を集めていたのだった。ヤサンティアの子孫が悪いカルマを背負うよう願って死んだ人々の呪いにより、ノイの長男は死に、ミンは悪霊に取り憑かれたのだ。

最終的にはミンの除霊を行うことにするのだが、その準備期間中のお篭もりのあいだに、なんとなんと、物語の中心人物であったニムが自宅で死亡しているのが発見される(そういう原因不明の突然死はタイでは"ライタイ“と呼ばれているらしい)。

終盤のクライマックス前のニムの死でこの映画自体が求心力を失ってしまった感がある。

ここからは私の推測だが、ニムが命を落とした原因は、彼女がバヤンの女神の実在を信じられなくなったことにある。悪霊に取り憑かれたミンがニムに、「自分の身代わりにお前を巫女にしようとしてノイは全力を尽くした」旨を告げ口する。その後、バヤンの女神像の首が落とされているのを発見したりと、ニムにはショックな出来事があった。ニムの信仰心はどんどんと弱まり、儀式などもぞんざいに行うようになる。すべてが終わった後に挿入される最後のインタビューで、ニムはバヤンの存在が感じられなくなったと言う。ノイが若い頃女神を拒否したように、ニムもまた、無意識のうちに拒否してしまったのかもしれない。信仰心をなくしたため守られず、命を落としたということか。

除霊師たちがどんどんと動物の低級霊のようなものに取り憑かれる。サンティの言によると、人々、動植物の悪霊がてんこ盛り的にミンに取り憑いていたのたが、マニの妻が介入したことによる儀式の失敗のせいで、悪霊が解放されてサンティは命を落とし、彼の配下の除霊師たちも獣のような振る舞いをし始める。

結局、ミンに取り憑いた霊の総体はヤサンティア家を恨む者たちの怨霊ということで間違いなさそうなのだが、ニムの女神であったバヤンがどうなったのかはよく分からない。ニムもノイも命を落とし、ミンは悪霊の依代になったままで終わる。巫女がいなくなった女神はどうなってしまったのだろうか。
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