しの

THE FIRST SLAM DUNKのしののレビュー・感想・評価

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
3.9
3DCGってこんな表現ができるのか。予告映像であれだけ感じた違和感がゼロになるどころか、この原作のこの映画にしかできない没入体験が確実に生まれている。どんな魔術だ?

漫画の絵を動かす3DCGは『スパイダーマン:スパイダーバース』が既にやっていたが、本作のそれは輪郭線があって、ベースがより漫画寄り。また、あちらはある種のメタフィクションであることを強調した映像演出であり、その世界観含めて面白がる作りなのに対して、本作は漫画の世界をこそリアルな世界として現出させ、実際の試合を観戦しているような体験を提供している。従って3次元的な動きを見せることもでき、大ゴマに相当するキメ画もシームレスに提示できる。「漫画のキャラクターがそのまま動いてる」感が美しくすらあった。

つまり、それぞれの題材に対して必然性のあるアプローチをしていて、ここをまずは称賛したい。これはスラダンの映画化云々を超えて、スポーツアニメのひとつのスタンダードになり得るアプローチだと思えた。複数人の動きが分かりやすく、実写ではできない時間操作やケレンを交えて、しかしそれを「リアルな試合」として提示できる表現。他の題材にも応用が効きそうだ。

とはいえ冒頭、兄弟が哀しみに暮れる母親を見つめるシーンの「のっぺらぼう」は正直ギョッとしてしまった。試合の観客の処理もそうだが、漫画的な省略をそのままやると不自然になっている部分はある。ただ観客については、見ている間はどこにフォーカスさせるかがコントロールされているのでほぼ気にならなかった。流石に引き絵で相手側の応援団が全く同じ動きをしている様子などは気味悪かったが、少なくとも予告編で感じたほどの違和感はない。

そして何より「時間」の演出が良い。どこをリアルタイムで見せてどこをスローで見せるかという操作が効いていて、それこそ一瞬の攻防で形勢が大きく変わってしまうバスケットボールという競技の緊張感が存分に味わえる。その極致がラスト1分。それまでリアルタイム志向だったからこそのあの体感! 素晴らしかった。

この時間演出がいいからこそ、回想の挿入が本当にもったいない。特に後半の主人公絡みの回想は、すでに前半であれだけ見せているのだから流石にクドいし、せっかくの盛り上がりが邪魔されてしまう(ケーキ云々のエピソードの入れ方は正気を疑う)。回想の挿入は前半だけにして、後半はひたすら試合に徹する中でドラマを回収する構成にして欲しかった。

そもそも、あの主人公にだけ比重が置かれエピソードが重い必然性を感じない。もちろん、映画として再構成するにあたり、各キャラクターと接点を持つ導入役としても相応しかったのだろう。実際、原作の記憶ほぼない自分は全然楽しめた。むしろ「あの台詞ない」「この台詞ない」的な不満がない分、フラットに見れるわけだし。ただ、キャラクターのドラマにぎこちなさは感じた。なぜここでその回想が入って、それが試合でどう昇華されるのか、の部分が一直線になっていないので普通に観るとツギハギ感がある。一番大きいのは、主人公になっているキャラクターと試合の終盤でフィーチャーされるキャラクターが違うという点で、ここは再構成ゆえの不整合を大いに感じた。チームメンバーのうち一部のキャラクターのみに比重を置く必要はやはり感じない。

『鬼滅の刃 無限列車編』ほどではないにせよ、本作も連載漫画の一部のみ抜き出して映画化したが故の不整合を感じるという点で、手放しでは褒められない。ただ、やはり一試合をフルで描くというのは映画と相性いい題材だし、クライマックスであの「観客」として他の観客たちと息を呑む体験は(無音演出であることを含め)映画館でしかできないだろう。少なくとも「バスケの試合を観てリアルに汗が背中を伝う体験ができた」という点において、これは肯定したい。

(※ネタバレ感想ラジオ)
【初見が語る】これはスポーツアニメの革命!『THE FIRST SLAM DUNK』は何を成し遂げたか
https://youtu.be/nQYNr53gN1w
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