春とヒコーキ土岡哲朗

THE FIRST SLAM DUNKの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

迫力を完全再現と、一発目でかますまさかの配役。

まさかの、宮城リョータが主人公。原作でも、バックボーンが描かれずに一人だけ情報が薄いキャラクターになってしまった宮城。原作で同時に登場した三井の陰に隠れてしまったからだ。そんな宮城について、今回の映画で急に掘り下げた。最初は、宮城の過去編も紹介しながら全キャラクターについて触れるのかと思った(『エンドゲーム』がホークアイのシーンから始まったようなものだと思った)。だが、ずっと宮城の映画だった。これで、宮城だけ情報が薄い問題を解決し、スラムダンクが完成した。連載終了20年以上経ってからの映画でそれをやってのけたことが痛快。殿堂入りした伝説の漫画として20年以上愛され続けていたから成立する、わがままな作り。宮城を主人公に絞るため、回想では三井の「安西先生、バスケがしたいです」を、試合では桜木の「大好きです。今度は嘘じゃないっす」を削り、「左手は添えるだけ」も声抜きで口パクでスルーする。知っていると物足りなさはあるが、あったらあったで宮城の話にはノイズになるため、どちらかを選ぶとなったらこれでよかったと思う。ただ、宮城以外の描写を省きすぎると試合自体のカタルシスがなくなってしまうので、桜木の練習の日々や、赤木の周りとの温度差コンプレックスは挟む。それで試合にも興奮できるし、みんなの物語がある中で宮城リョータも自分の物語を戦っている、という印象になった。

兄の代わりを求められる宮城。父に続いて兄も亡くした幼い宮城。母は、長男を亡くした喪失感を隠しきれず、それを見ていた宮城は、自分は兄の代わりと感じてしまう。兄に教わったバスケを続けるものの、兄ほどの活躍ができず、宮城も母親に心を閉ざしていく。兄とつながれると同時に、兄の喪失を忘れられるほど没頭できるバスケだけが拠り所で、そこには本気になっていく。それが、湘北バスケ部で本気で全国を目指す赤木と共鳴する。先代のキャプテンに絡まれたところを「宮城はパスができます」と、赤木がフォローに入る。自分のできることを見ていてくれる人がいる、志で同じ人のいる環境。
三井に絡まれたときの宮城は、ビビりながらも歯向かい続けた。根っから血の気が盛んなのではなく、兄=頼る相手がいないから逃げてはいけないという意識と、母親からしたら自分なんてどうだっていいんだという自暴自棄が混ざって出来上がった問題児。山王に押されて心を乱すチームメイトたちを宮城が冷静に鼓舞するシーンがあるが。宮城の背景を知って見ると、彼がそういうところに気が付く繊細さがあるのにも納得。