Blake1757

THE FIRST SLAM DUNKのBlake1757のレビュー・感想・評価

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
3.5
「スポーツ映画」においては、実写映画よりもアニメーションの方が、むしろリアリティのある試合シーンを映像化できるのかもしれない。「THE FIRST SLAM DUNK」を観て、そう思わされた。
この映画は、バスケットボール1試合の開始から終了までを中心とする構成(もちろんそれだけではないが)になっている。それだけ、試合の部分の比重の大きい、ある意味で王道的な「スポーツ映画」だが、その試合の映像については、プレイヤーの躍動する身体、スピーディかつトリッキーに動かされる両腕と脚のステップ、放たれたシュートの軌跡と時間感覚、揺れるバスケットゴールの微細な動きまで、非常にクオリティが高い。
狭い空間にプレイヤーが密集し、かつ方向転換やトリッキーな動きの多いこの競技で、俳優を使って同じような「実写の映像」を撮影しようとしたら、(カット割りやカメラ位置を工夫しても)おそらく相当に難しいだろう。その意味で、この「THE FIRST SLAM DUNK」は、高度なアニメーション映像でそれを実現しており、スポーツ映画の可能性を開いた作品といってよいと思う。
(なお、個人の好みではあるが、3DCGのビデオゲーム風の自由視点映像が多用されていたら嫌だなと思っていたのだが、そうした不自然な映像はなく、違和感なく「バスケットボールの試合観戦」を楽しむことができた。)

また、この映画については、「映像」とは別の部分で、スポーツ映画の可能性を開いた面もある。それは、「シナリオ構造」の部分である。
多くのスポーツ映画は、クライマックスの試合に向けて、そこに至るストーリーを語っていく構造になる。オープニングからクライマックスに至るまでに、登場人物の成育歴や性格、人間関係などの「物語」が描かれ、映画の観客はそれらを理解した後に、(映画のクライマックスの)試合を観ることになる。

「THE FIRST SLAM DUNK」は、この慣習的な構造に囚われずに、見事なシナリオ構造で映画化されている。どういうことかというと、この映画では、メインとなるバスケットボールの試合映像にインサートされる形で(過去の映像という形で)、プレイヤー個々の「物語」が語られているということだ。

実際のスポーツ中継では、こうしたエピソードはアナウンサーが数秒で挟み込む程度だが、意図的にこの部分を膨らますことで「コンテンツ」としての「物語性」を増幅しているのは、正月の箱根駅伝中継に代表される、陸上の長距離レースの中継番組である。

つまり、映画「THE FIRST SLAM DUNK」は、こうした、実際の「スポーツ中継番組」と同じ、「競技映像の間に『物語』をインサートする」構造を採用しており、見事なシナリオ・ライティングで、「試合の躍動感・ダイナミズム」と「登場人物の物語」を併走させ、約2時間の映画として成立させていたということだ。ある意味、高校バスケの試合を「(出場選手についてのエピソード的な)詳しい解説付きで、1試合丸ごと見たような充実感」がある。
あくまで個人的な感想としては、主人公の「母と子の物語」がやや過剰だと感じた部分もあったのだが、あれがこの映画で作家の書きたかった物語でもあったのだろうし、それが高い評価に結びついている面もあることと思う。それらすべてを含めて、「THE FIRST SLAM DUNK」は、新しい形での「(スポーツの試合をメイン・プロットする)スポーツ映画」の傑作であった。
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