ツクヨミ

まわり道 4K レストア版のツクヨミのレビュー・感想・評価

まわり道 4K レストア版(1975年製作の映画)
2.3
自己覚知に至る"まわり道"と呼ぶべき長い長い旅路。
作家志望のヴィルヘルムは母親と2人で暮らしていたが、うまくいかない日常に負の感情を連ねてばかり。そんな折に彼を見兼ねた母親は彼を旅へと送り出す…
ヴィム・ヴェンダース監督作品。特集"ヴィム・ヴェンダース レトロスペクティブ"にて鑑賞、ヴェンダース監督のロードムービー3部作のうち2本目に当たる今作はいろんな人と出会い別れるというコミニュケーションが先行した旅路だった。
まず今作は主人公ヴィルヘルムを起点にしたロードムービーになっている。前半は車から列車など乗り物を変え、いろんな場所に旅行していく内に出会った人々がヴィルヘルムに付いていってしまうという描写がなんとも滑稽で面白い。ヴィルヘルムの見た目や人間性に惹かれて人々はついてくるが、ヴィルヘルム本人はそれを望んでいなく対応も素っ気ないというのが更に可笑しな絵面を形成している。
そして今作は主人公ヴィルヘルムが出会った人々にいろいろ影響を受けていく展開が実にヴェンダース的だなと感じた。また彼の映画は旅という移動描写の楽しさとその旅に付随した人間関係が起こす内面の昇華だと感じているので、今作でも主人公ヴィルヘルムが旅の帰結によって気づきを得る自己覚知がなんとも言えない雰囲気を醸し出している。前半は人が集まる、後半は人が離れていくという構成の妙もあり旅は人間の"出会いと別れ"を語る上手い出来事であり事象なんだなと改めて感じた。
また今作はロードムービーとしての映像も素晴らしく爽快である。オープニングの町の空撮から始まり、列車や車.果ては徒歩により見えてくる景色が変わるがわるしていく移動撮影が楽しい楽しい。ロングショットによる景色も楽しいがスピーディーに変わりゆく景色の旅情感はやはりロードムービーの醍醐味であった。
ロードムービーとしてのんびりと日常的である映画はヴェンダース作品として変わらないが、構成の上手さや帰結するラストが良い余韻を残してくれる良作だった。またこの後"パリ、テキサス"で大注目されるナスターシャ・キンスキーの映画初出演作としても大注目、セリフ一切なしノンバーバルな魅力全開な演技を披露してくれているのがかなり好印象。
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