kuro

アメリカの友人 4K レストア版のkuroのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

"死んだ画家"の絵画を売るリプリーは、オークション会場で額縁職人のヨナタンと出会う。あいさつに手を差し伸べるリプリーには応じず「噂はよく聞いているよ」とだけ答えたヨナタン。そんなヨナタンを気にしているリプリーの元へ、殺し屋から依頼がくる。オークション会場で、ヨナタンが病気だと耳に入れていたリプリーは、病気で残りわずかな命、どうせ死ぬなら家族に金を残した方がいいのでは?と、ヨナタンを紹介する。突然殺し屋が訪れて、誰が自分の病気を知り、殺し屋を派遣してきたのか訝しがるが…。

2024/3/8 新文芸坐で「パトリシアハイスミスとその時代」特集にて鑑賞。甫木元監督のおすすめ作品と知って、気になっていたので観られてよかった。『リプリー』は鑑賞済みだが、シリーズが存在するとは知らなかった。それでもとても面白かった。

まず最初に、映画館の音がとても良くて驚いた。足音、ノックする音、ドアや椅子が軋む音、ひそひそ声など、どの生活音も気持ちがいい。あまりの気持ちよさに、序盤うとうとしてしまった。
リプリーの正体や、行動の理由に(??)と思う点があり、集中したが、気づけばヨナタンが殺しを引き受けていて、標的を追っていた。寝過ごすして標的を見失う、ピストルをうっかり見せちゃう、監視カメラに派手に残るなど、ヨナタンすごくずさんで、家族のためとはいえ、なぜ引き受けた? うとうとしている間に何があったのだろう。

そしてまた、よく分からないことが起こる。続けて殺しの依頼を受けたヨナタンを、妨害しようとするリプリー。自分が紹介したのに? なぜだ。さらには、ヨナタンが殺人を予定する現場にリプリーが登場。ヨナタンの拳銃を隠して、殺しをさせまいとする。しかし、標的には殺意がバレてしまっているし、強そうなマフィアや護衛もいるしで、リプリーはヨナタンに加勢して、どうにか逃げ切る。
2人の動きはもうめちゃくちゃで、こんなことが起きてなぜ電車で大騒ぎにならんのだ? と思うが、あまりにめちゃくちゃなのに、駅員や乗客の目をごまかせてしまうことを、2人もちょっと楽しんでいるようで、真剣で切実なんだけど、観ていて微笑ましくなった。

で、もちろん殺しは失敗、身バレしてマフィアに追われる2人。これもまたむちゃなやり方で、その場だけ凌ぐことに成功。震えるヨナタンの前で、温かいコーヒーをポットに注ぐリプリー。音がまたもや素晴らしい。「長い旅になる」的なことを言うリプリーがちょっと嬉しそうだ。この後、ヨナタンの奥さんが迎えに来た時の寂しそうな、何かをこらえるような顔のリプリーも印象的だった。2人の逃避行の予感から、一気に現実へ引き戻される。

ラストシーンのあと、色々なシーンが蘇った。額縁工房で送る静かな生活と、高い技術で生計を立てるヨナタンに憧れの気持ちを吐露するリプリー。お詫びの品への返答品を渡すリプリーと、嬉しそうなヨナタン。リプリーの悪事を見抜く目利き力、大ごとにはしないが握手は拒む正義感をもつヨナタン。ヨナタン、とてもいい人。対してリプリーは、贋作売るし、殺し屋を素人に紹介するし、良くない。なのに、憧れと嫉妬の感情に翻弄されるリプリーには、憎みきれない魅力があった。

犯罪の手際が悪すぎてめちゃくちゃだし、それで相手も乗務員も警察も動かないし気づかないとは?、と思ったので−0.5。しかしその点もどこかしら微笑ましく思えた。それも狙っているのだろう。ラストは決してハッピーエンドではないが、観終わったあとは、冷たさと温かさの両方が心に染み込み、どことなくしっくりきた。めちゃくちゃ面白い!ってわけではないが、不思議で稀有な感覚を残す、印象的な作品だった。あと音と色彩がめちゃくちゃよかった。
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