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アステロイド・シティのコマミーのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.7
【喪失とその目覚め】



私の脳みそが疲れているだけかもしれないが、本作は前作「フレンチ・ディスパッチ」以上に難解で、実際本作が伝えたかった意味を完全に理解できた訳ではない。"ウェス・アンダーソン"作品はいろいろ観てきたが、彼は作品を作る毎に描き方に徐々にドスを効かせているのが分かる。
私みたいな人間は、周りのパステルカラーの背景を楽しむだけの方が良いのだろうか…?

ただ本作はただの"群像劇"として描いているのではなく、"2つの世界"に分かれている。

それは"架空と現実"だ。いわゆる舞台と裏側…これはまさにこの映画や演劇を手がける"作家と俳優の物語"でもあったのだ。いわゆる本作は、"劇中劇"である。
もちろんメインは、「アステロイド・シティ」と言う架空の小さな町を舞台に、1人の子連れで妻を亡くしたばかりの"写真家の男"とグラマラスボディの"映画スターの女性"、そして写真家の男の"秀才な息子"など、そこにいる人々の"喪失"や"未知との遭遇"などを描いている。
そしてもう一方は、「アステロイド・シティ」と言う"テレビ向けの舞台劇"を手がける人々のお話。作家や住民達を演じている俳優の作る側としての"心の葛藤"をメインと合わせて紆余曲折に描いている。

…この物語を一度で理解するのが無理な話なのだが、ウェス・アンダーソンは実は本作で観客に対して「特訓」と言う訳ではないが、観客に登場人物の感情をどれだけ読み取り、アレンジできるか試した作品なのではないかと感じた。この監督の作品を見るにあたって、皆さんはほとんど周りの可愛らしい背景や登場人物の服装なのを気にする人が多いだろう?しかし本作を、他人事として見るか自分事して見るかによって、芸術の見方は変わってくると言う事を伝えたかったに違いない。

それを考えたら、こんなにも非現実的でもあり現実的な見方もできる作品はないなと感じた。

ただ、伝え方があまりにも難解すぎた。と言うより、架空(アステロイド・シティの人々の物語)と現実(その劇を作る人々)の物語の交差があまりにも複雑すぎたのである。結構、"頭を捻ったり"、"目をより良く凝らしたり"して見ると、伝えたいものが見えてくる作品だなと感じた。

"宇宙人"のビジュアルが本作の唯一の和み要素であり、宇宙人自体が物語を決定的に左右する要素だったなと感じた。
そして本作にも、さりげなく"クィア要素"が織り込まれている。それは現実のシーンでの作家と写真家の男役の役者との"会合シーン"で明らかになるのだが、勿論このシーンも物語の完結に深く関わってくる。架空のシーンでも、写真家の男と映画スターの女性のモーテルの窓越しのシーンでほんとにさりげなく表現されている。

本作はウェス・アンダーソン史上、最も芸術の在り方について深く触れている作品で、勿論賛否が分かれる作品だと思う。
いつも通り、パステルカラーのウェス・アンダーソンの世界観を楽しむのも良いが、これを機会に群像劇ならではの、ひいては"芸術作品としての楽しみ方"を本作で極めてみるのもいかがだろうか?


これはウェス・アンダーソンから観客への、挑戦的な作品だ!
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