てっぺい

アステロイド・シティのてっぺいのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.5
【ウェス映画】
カラフル、入れ子構造、シュールさも含めてウェス監督の世界観爆発。監督と親友だという主役のために作られたという本作は、豪華出演者の中で、辿るその運命がそのまま作品のメッセージになっている。

◆トリビア
○ 本作は、アメリカでの先行公開3日間で、1劇場あたりの興行収入13万2000ドルをあげ、「ラ・ラ・ランド」以来の最高記録を樹立。さらに拡大公開後初週の週末3日間の興収が、アンダーソン監督作品史上最高記録を達成した。(https://eiga.com/news/20230724/13/)
〇オーギーを演じたジェイソン・シュワルツマンは、『天才マックスの世界』(98)以降、数々のウェス監督作品に出演した、ウェス作品にとって欠かせない俳優のひとり。監督は、「この映画はジェイソンのためにつくられた。ジェイソンの性格や能力を活かしながら、彼が演じたことのない役をつくり、その役を中心に映画全体を構築していった」と語る。(https://front-row.jp/_ct/17638125)
ジェイソン・シュワルツマン扮するジョーンズが、オーギーになりきって「アステロイド・シティ」のオーディションを受けるシーンは、ジェイソンが制服を着て高校生になりきったままオーディション会場に現れた「天才マックス」の伝説のオーディションの再現。(https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/35024)
〇オーギーの「妻と死別して、子どもにその事実を隠している」という設定は、演じるジェイソンの実際の家族事情と意図せず重なった。彼の父は、その母が亡くなった事を知らされなかった経験があるそう。(https://eiga.com/news/20230830/8/)
〇監督曰く、ジェイソンは自分の撮影がない日でも、役になりきって、衣装着用で現場にきて、役の通りに振る舞うなど、作品に全身全霊で力を注ぎ込む。(https://eiga.com/news/20230830/8/)
○ ジェイソン・シュワルツマンはソフィア・コッポラとニコラス・ケイジのいとこで、つまりゴッドファーザーで有名なフランシス・フォード・コッポラの甥っ子。(https://www.tadamonkugaiitakute.com/33602.html)
○ ミッジ・キャンベルのインスピレーション元となったのはマリリン・モンロー。その遺作『荒馬と女』の一連のスチール写真は、戦場・報道カメラマンとして知られるロバート・キャパたちが創設した写真家集団マグナム・フォトとの専属契約によって撮られたという点で、本作ののオーギーのイメージとつながっている。(https://otocoto.jp/column/asteroidcity-movie0901/2/)
○ 本作での、突然襲来した宇宙人に対処する人々を描いたスペシャル・ドラマは、明らかにスティーブン・スピルバーグの1977年作「未知との遭遇」へのオマージュ。(https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/35024)
〇作中で“架空のドラマです”という断りが入るのは、フィクションを作る過程を1つのリアリティーとして描いてみたいという監督の思いから。(https://www.fashion-press.net/news/108295)
○ アステロイド・シティは、建物のみならず、岩や山、サボテンまでもが人の手で造られたセットで、CG用のスクリーンバックはほぼ使われていない。スペインのチンチョンの広大な平地に組まれた。(https://s.cinemacafe.net/article/2023/08/02/86703.html)
スカーレット・ヨハンソンは、「セットで完全なる世界を作ってくれるので、まるで舞台に立っているかのよう。ライブ感があるので、とても充実感があるし、ワクワクします」と語る。(https://eiga.com/news/20230724/13/)
〇ウェス監督は、ロケ地が決まるとまずアニマティック(手描きのフィギュアを使ったアニメーション)で最初から最後まで映画を作り、それを出演者に見せて、映画製作を進めていく。本作も例外ではなく、この手法がウェス監督の作品の独特な世界観にもつながっている。(https://www.gqjapan.jp/article/20230828-asteroidcity-movie-wes-anderson-interview)(http://indietokyo.com/?p=503)
○渋谷PARCOでは、"ASTEROID CITY EXHIBITION"を9月4日まで開催。キャストが着用した衣装や小道具の展示のほか、フォトスポットやオリジナルグッズの販売などを行う。(https://art.parco.jp/galleryx/detail/?id=1273)

◆概要
2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
【脚本・監督】
「グランド・ブダペスト・ホテル」ウェス・アンダーソン
【出演】
「ブラック・ウィドウ」スカーレット・ヨハンソン
「フォレスト・ガンプ/一期一会」トム・ハンクス
「バービー」マーゴット・ロビー
「007」シリーズ ジェフリー・ライト
「ドクター・ストレンジ」ティルダ・スウィントン
「スパイダーマン」シリーズ ウィレム・デフォー
「戦場のピアニスト」エイドリアン・ブロディ
「ビューティフル・ボーイ」スティーヴ・カレル
「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」ジェイソン・シュワルツマン
「グランド・ブダペスト・ホテル」エドワード・ノートン
【公開】2023年9月1日
【上映時間】104分

◆ストーリー
1955年、アメリカ南西部の砂漠の街アステロイド・シティ。隕石が落下して出来た巨大なクレーターが観光名所となっているこの街に、科学賞を受賞した5人の少年少女とその家族が招待される。子どもたちに母親が亡くなったことを言い出せない父親、映画スターのシングルマザーなど、参加者たちがそれぞれの思いを抱える中で授賞式が始まるが、突如として宇宙人が現れ人々は大混乱に陥ってしまう。街は封鎖され、軍が宇宙人到来の事実を隠蔽する中、子どもたちは外部へ情報を伝えようとするが……。


◆以下ネタバレ


◆ウェス感
4:3画角のモノクロテレビ映像から始まる冒頭。その第一声から“アステロイド・シティは存在しない”。演者役の面々を映して、画面はカラフルな映画サイズになりタイトルへ。本作が、その画角と色で、演劇とその舞台裏を分ける入れ子構造になっている事が分かる。「グランド・ブダペスト・ホテル」('14)や「フレンチ・ディスパッチ」('21)でも使われていた、もはやウェス監督の得意技だ。そして、平地に全てセットとして作ったというアステロイドシティの世界観。建造中止の高速道路に、サボテンに岩山までセットなのだから驚く。銃パンパンのカーチェイスや核実験は1955年当時の世相表現か。“天才”が集まる部分も、独特のカラフルさも含めて、全体を通して当然ながらウェス感満載。

◆オーギー
オーギーを演じたジェイソン・シュワルツマンのために、監督が作ったという本作(ちなみに脚本のロマン・コッポラは監督と旧知の仲でありジェイソンのいとこでもあるそう)。妻の死後、義父との距離に悩み、子供達にその死を告げる時期が読めないもどかしさ(告げた時の娘の“でいつ帰ってくるの”がめちゃくちゃかわいい笑)。宇宙人の登場をきっかけに、義父とも和解し、息子のウッドロウ(信じられないくらいジェイソンに似ていた)とも距離が近づき、ミッジとも心が通うように。思えば、オーギーの故障した車を復帰させたあの部品と、宇宙人が乗っていた船の乗降部分が同じ形状だったのは、両者ともオーギーにとっての再生のモチーフを表現したものか。本作はなるほどオーギーにとっての“喪失と再生”の物語になっており、もの中心に紛れもなくオーギーがいた。

◆目覚めたければ眠れ
そんなオーギーの役どころをさらにグッと深めたのが、講師と受講者達が声を合わせて唱えた“目覚めたければ眠れ”。エンドロールでもBGMで連呼するほどだったこのフレーズ。途中自分の役に悩み始めたオーギーは、舞台から舞台裏に移り、代役の話まで出されながら舞台の外にまで出る。ある意味一度、役から離れる覚悟をしたオーギーが出会う妻役の女優。彼女と通じ合う事で、“撮った写真は必ず現像する”戦場カメラマンである事を再確認し、力がみなぎるオーギーの姿は、まさに目覚めるために一度眠った表現そのもの。それは本作の放つ重要なメッセージでありながら、オーギーが迎える運命にも重ねられていた。「天才マックスの世界」('98)からタッグを組み続けもはや親友だというウェス監督とジェイソン。そんな彼らの絆がどこか感じられる作品でした。

◆関連作品
○「天才マックスの世界」('98)
ウェス監督とジェイソン・シュワルツマンのタッグ初作。天才だけど風変わりな少年の恋と青春のコメディ。ディズニープラス配信中。
○ 「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」('21)
ウェス監督の前作。フランスの架空の街を舞台に、映画の中で雑誌の記事を展開させたような作品。ディズニープラス配信中。

◆評価(2023年9月1日現在)
Filmarks:★×3.7
Yahoo!検索:★×3.3
映画.com:★×3.7

引用元
https://eiga.com/movie/99273/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/アステロイド・シティ
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