最初に断っておくと、ウェス・アンダーソンの映画には初期の頃から好意を持っていますし、『ライフ・アクアティック』などは2000年代のベスト10に選びたいほど大好きな作品です。
ただ、本作に関しては、これまでの作品以上に、設定、構成、舞台装置、カメラワークなど凝りに凝っており、それらの事象を処理するのに精一杯で、いまひとつ映画に没入できなかったというのが正直な感想です。
何度か観れば、その魅力を充分に堪能できることは目に見えていますが、個人的に映画鑑賞においては、初見の第一印象を大切にしたいということを信条としていますので、ひとまずこのような採点になってしまいました。
しかし、それでも主人公役の俳優(ジェイソン・シュワルツマン)と妻役として登場する予定だった女優(マーゴット・ロビー)が隣合わせの建物のベランダで対峙するシーンにはハッとさせられます。
モノクロームの画面によるクローズアップとロングショットのシンプルかつ的確な連鎖。
不意にこういう美しい瞬間に遭遇する悦びが忘れられないので、ウェス・アンダーソンの映画を観続けているのです。