旅するランナー

アステロイド・シティの旅するランナーのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.2
【ウェス・アンダーソンすぎる映画】

これも、ウェス・アンダーソン監督作品を観続けていて、この人のオタク気質への許容性がある程度備わっていないと、なんじゃこれは!?で終わっていまいそうです。
あからさまな趣味嗜好映画ですからね。
なんて言っている僕は、今年5月にわざわざ天王洲アイルまで行って「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」を見るWAフリークなので、この独特なアートを、しっかり楽しめました。

大傑作「グランド・ブダペスト・ホテル」以降、
日本アニメに傾倒した「犬ヶ島」。
雑誌コラムに思いをはせた「フレンチ・ディスパッチ」。
この2作は「趣味に走り過ぎやろ」「ディテールに凝り過ぎやろ」とツッコミを入れたくなる作品でした。
ちょっと、見る人を置いてけぼりにしてしまいます。

今作も、1955年頃のアメリカの演劇界に強いこだわりを見せ、当時の社会や文化を憧憬する、クセの強い作品です。
が、オールスターキャストや、宇宙人の滑稽さ、三姉妹のキュートさ、セットの可愛らしさ、完璧なカメラワークなど、
大衆受けもする、ウェス・アンダーソンすぎる映画になってます。

演劇界の描写については、町山智浩氏がパンフレットに記載している記事などを参考にすると理解が深まります。
映画の登場人物それぞれのモデルになっている実在の人物がいるんです。
劇作家コンラッド・アープ(エドワード・ノートン)→テネシー・ウィリアムズ
演出家シューベルト・グリーン(エイドリアン・ブロディ)→エリア・カザン
演技講師ソルツバーグ・カイテル(ウィレム・デフォー)→リー・ストラスバーグ
女優ミッジ・キャンベル(スカーレット・ヨハンソン)→マリリン・モンロー
その他→アクターズスタジオの俳優たち

あとは、思わせぶりなセリフも多いです。
「起きたいなら眠れ」(“You can't wake up if you don't fall asleep”「眠らなければ目覚めることもない」)。
映画も観なけらば、好きか嫌いかは分からない。
好奇心を持ち続け、前に進むしかないのです。
「時が全てを癒すなんてことはない、せいぜいバンドエイドさ」
結局、映画も心を癒してくれるけど、心の傷を完治させるわけではない。
この映画も、バンドエイド程度に思っておきます。