センター分けのましゅちゃん

アステロイド・シティのセンター分けのましゅちゃんのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.0
ウェスアンダーソン監督が考える、
演劇と現実世界を、
ウェスアンダーソン節全開の世界観で
観せる一本。

ただ今作、
没入型作品の極みのような世界観を
作り出すはずのウェスアンダーソンが
その世界観の中に、
我々鑑賞者を没入させてくれない。
入り込みそうになる度に、
場面を切り替え、ブロックされてしまう。

このトリックこそ、今作の醍醐味。
敢えて観客を没入させない
ウェスアンダーソンマジック。

誰もが人生の中で、物語を
演劇を、虚構の世界を求めている。
その中に自分の存在を探し、
知らない世界の自分と共鳴したがる。

目覚めたければ、眠れ。

現実世界を生き抜くためには
眠りの虚構の世界に落ち、
その中に自分を探す必要がある。

ただ最後の感動的で1番美味しいものは
自分で見つけ、自分の中に
しまわないといけない。

だからこそ、
今作の1番の旨みであり、
我々の観たいものもまた、
ウェスアンダーソンだけのもので、
しまわれたものなのである。

劇中劇と、現実世界を往復する
二重構造を巧みに用いたシナリオと
演出の数々だった。

ウェスアンダーソンの
演劇への愛が詰まった、
ラブレターのような作品。

没入はできないものの、
どこを切り取っても絵になってしまう
ウェスアンダーソンの色彩と世界観は
十分に堪能できるのでご安心を。