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アステロイド・シティのandesのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.5
「面白い」映画かと言われれば面白くはある。ただ、それがルックや映画的なテクニックによるところが多く、評価には困る。今回は妙に難解であり、主題が分かりづらい。まぁ、「喪失と再生」なんだろうが、それはウェス・アンダーソンの一貫したテーマなので今更である。
確かに画面構成は見事である。見てるだけで楽しめる作りにはなっているのは親切なのか、逆に捻くれているのか。冒頭で分かりやすく虚構と現実が提示されるが、それが交錯する。オーソドックスな手法だが意外と淡白なのは新鮮だ。
さて、入れ子構造で劇中劇とややこしさはMAXなのに、さらりと収束させるのは流石である。ただ、正攻法ではなくスカシまくるのでカタルシスは薄い。この辺は好みだが、一部でも分かりやすくエモーショナルなシーンを入れた方がいいと思う(恐らくマーゴット・ロビーの場面なんだろうが、まだ格好つけすぎである)。
まぁ、心にポッカリ穴のあいた人間が少しずつ周囲と折り合いを付けていくのはリアルなのかもしれない。例え宇宙人が現れても、我々は退屈な日常を続けねばならない。
気になるのは「虚構と現実」を見せておきながら、この映画は虚構のまま終わるのである。劇中、主役の俳優は役柄と自分が不可分になる。そして、虚構も現実となる。もちろん、映画という虚構に心を動かされる我々は「現実」なのである。そういえばフェリーニという人は「人生は祭りだ、ともに生きよう」なんて言ってたっけ。となると「芸術讃歌」でもあるが、回りくどいな…。
とんでもなく情報量が多く、語りがいのある作品だと思うが、絶賛はできない。この監督は毎回「死」による喪失=ドラマしか描けないで、案外引き出しがないと感じた。あと、天才ゆえの孤独も「ザ・ロイヤル・テネンバウムス」でやっている。自分の得意なところでしか勝負していない。深化はあるが進化してない。
スピルバーグもスコセッシもタランティーノも新たな領域にチャレンジして、時に失敗しつつ幅を広げてきた。箱庭を作り続ける監督もいていいとは思うが、このスタイルを続けるのなら、ずっと「サブカル系」監督のままだと思う。
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